Diary & Novels for over 18 y.o. presented by Reica OOGASUMI.
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仕事の。
昨日職場で仕事をしていたら、突然上司がやってきて「●日、空いてる?」と。 う〜ん、その時間は微妙です。 「なるべく空けといてよ」。 はぁ。 空けるのは良いんですがね。 何故に一番忙しい日に突然面会のアポイントが入るのでしょう? おまけに私の本を読んで感激してくれた岩手の教授が駆けつけてくれるんだって言うじゃないですか。 苦苦苦。 前のNOTEはそれが狙いだったんだけどさ。ちょっと急過ぎて。 と言うわけで、某教授宛の原稿を書いております。久々に書庫を空けて、昔読み漁った専門書などを開きながら。殆どが洋書なので、自分で引いたマーカーや自分で書いた拙い和訳なんかが懐かしいったら! 快楽主義に嵌った同僚たちに混じるのが嫌で、職場が借り上げていたマンションの一室に篭りきって書物に埋もれていたあの頃が在るからこそ、今があるのだなぁとしみじみしました。 覆霞は現在、都内のとある法人で上席だったりします。でも読書引き篭もりの頃は、末端でした。今度お会いする某教授は、私が末端だった頃、私が感銘を受けた書をお書きになった方なのでした。彼の書で私が動き、今は私の書で彼が動いて来る。 感慨に耽りつつ、教授に会います。 岩手の事を彼はどう表現するのかなぁ。 私は宮沢賢治が好きです。「貝の火」、暗記するほど読みました。昔、宮沢賢治の生家跡の隣の家の方から「雨ニモ負ケズ」の筆記版をいただきました。 大好きです、「雨ニモ負ケズ」。 仏だなぁと思うので。 雨ニモ負ケズ 宮沢賢治 雨ニモマケズ 風ニモマケズ 雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ 丈夫ナカラダヲモチ 慾ハナク 決シテ瞋ラズ イツモシヅカニワラッテヰル 一日ニ玄米四合ト 味噌ト少シノ野菜ヲタベ アラユルコトヲ ジブンヲカンジョウニ入レズニ ヨクミキキシワカリ ソシテワスレズ 野原ノ松ノ林ノ※(「「蔭」の「陰のつくり」に代えて「人がしら/髟のへん」、第4水準2-86-78)ノ 小サナ萓ブキノ小屋ニヰテ 東ニ病気ノコドモアレバ 行ッテ看病シテヤリ 西ニツカレタ母アレバ 行ッテソノ稲ノ朿ヲ負ヒ 南ニ死ニサウナ人アレバ 行ッテコハガラナクテモイヽトイヒ 北ニケンクヮヤソショウガアレバ ツマラナイカラヤメロトイヒ ヒドリノトキハナミダヲナガシ サムサノナツハオロオロアルキ ミンナニデクノボートヨバレ ホメラレモセズ クニモサレズ サウイフモノニ ワタシハナリタイ 南無無辺行菩薩 南無上行菩薩 南無多宝如来 南無妙法蓮華経 南無釈迦牟尼仏 南無浄行菩薩 南無安立行菩薩 (青空文庫) 朝の九時に下関を発って、一度小倉に行って、新幹線に乗り換えれば、あとは椅子に座っていれば東京に着くことになる。 仕事で行ったわけではないから、私には秘書のひとりもついていない。だから荷物も少なめで軽くていいのだが、往路で隣の客にこっそりサインを求められたので、今度はなるべく誰にも気づかれないように、車内でダテの眼鏡をかけていた。 『なにをされても貴方の場合、バレバレですけど』 私がプライベートでどこかに行くときに使う眼鏡をみて笑った大久保の顔を思い出す。 『…そんなに似合わないか?』 『お似合いですけど、ますます「木戸孝允です」とアピールする結果になってしまうんですよ』 『……じゃぁどうすればいいんだ』 困惑した顔で私が言うと、大久保はにやりと笑って言うのだ。 『ならば私が隠してあげますよ』 『!…』 私は彼のコートのなかに隠されてしまって むきになって私を隠そうとする大久保が面白くて笑った。 改札口を出ると、視界の奥に大久保の姿がみえた。 あのとき私を隠したコートを着こなして。 誘われるように私は歩き出した。 行き交う人の群れ…止まることの無い、足音… その先に彼がいて… だんだん彼との距離が縮まっていく。 ほんの二晩離れていただけなのに、とても懐かしいのは やはりここが私の息をするところだからだろう。 ああ帰ってきた。私は帰ってきた… 「ただいま……」 そうして私は彼の胸に飛び込むのだ。 昨日、長いこと電車に揺られて、起きたら私は山口にいた。 さぁっとカーテンを開ければ、見渡す限りの青い海。 初めて晋作に会った日に晋作に連れて行ってもらったのも、こんな色の海だったことを覚えている。あの辺りは瀬戸内海ではなく、周防灘というのだと知ったのは後だったけれど、晋作は瀬戸内の明るい海が気に入っているようで、休暇中の天気のいい日は、松山にある高杉家ゆかりの旅館で過ごしたり、もう少し足を伸ばして尾道観光などすると聞いた。どれもただの海水なのに、日本にはいくつもの海の顔がある。 なかでも大久保の生まれ育った鹿児島の海は異形だと聞いた。私は一度も行ったことはないのだが、そこは一般的イメージで語れる範疇の日本ではなく、かと言って九州でもなく、「鹿児島」と括られるのだそうで。 ただし大久保が鹿児島について話すことはなかった。 彼にとって ただひとつの故郷 辛い思い出の宿る町 彼の口の堅さがすべてを表している 逃げるようにして出てきた おそらくは最愛の土地… 下関の、海を隔てた向かいには九州が広がっている。 そのずっとずっと南に、彼の国があるのだ。 いつか鹿児島にふたりで行けたら きっといろいろ教えて欲しい 昔 お前になにがあって お前はなにを考えて どんな風に生きてきたのかを それから彼の手をとって 萩の町を歩いてみよう 子供みたいに空を見上げて 風にまかせて行ってみよう そうして私は声に出すのだ 私は大久保が好きだよと 貴方に会えて よかったと 偶然会った坂本と料亭に入って飲食して、帰宅したのは午後十時。料理は美味かったし坂本は相変わらず面白い男なのだが、やはり木戸さんが足りなかった。 「はぁ…」 ひとりきりの部屋というのは虚しいものだと感じるのは実に久しぶりだ。 寂しいとか、ひとりぼっちというのとは違い、彼でなければこの溝は塞がらないのだ。 俺はさっとシャワーを浴びて、夜食を食べながら今夜はテレビをみまくることにした。 リモコンでチャンネルをぱちぱちしていると、画面にいきなり木戸さんの映像が出てきた。 「うっ……」 いまの俺の心臓にはいちばん悪い映像なのに、それでもいちばん嬉しいのは何故だろう。俺はボタンを押す手を止めて、画面を見続けた。 ニュース番組に一瞬登場しただけだったが、彼の顔は真剣そのものだった。 俺はその向こうにある彼の笑顔を知っているのだ Turururu… はっとするとテーブルの上の携帯が鳴っていることに気がついた。慌てて俺はボタンを押した。 「もしもし」 『……あ、…大久保?…私だ』 声の主は木戸さんだった。 「木戸さん…」 俺たちは互いに今日あったことを喋った。今日の東京の様子、下関の様子、俺が坂本と会食したこと、木戸家で行われたパーティでのこと… そうして話題が尽きれば、互いを労わる言葉だけが時を埋めていく。 「木戸さん、いまおひとりですか…?」 『そうだよ。自分の部屋にいる…大久保は?寝室?』 「いえ…下のリビングのソファの上です」 『…もしかして寝転がってる?』 「お察しの通りで」 俺がそう言うと、携帯の奥で木戸さんが「あはは」と笑った。 『じゃぁ私も寝ようかな…』 「…お疲れなんじゃないですか?移動だけでも大変だったでしょうに」 携帯から、ごそごそという音が聞こえる。木戸さんはベッドに入ったようだった。 東京から下関まで新幹線で五、六時間はかかるのだ。そのあと歓待パーティに出席となると大変だろう。 「今夜はぐっすり休んでください」 『…ベッドに入らせてもらったよ。すまない…』 「明日もお忙しいんですか?」 『んー………私がメインではないから、そこそこじゃないかな』 「…せっかくご実家におられるのですから、ゆっくりなさってくださいね」 心配だなぁ。木戸さんがメインじゃないとは言え、木戸さんは唯一の国会議員じゃないか。接待されるというよりも、接待する側になってしまいそうだ。はぁ。 『…大久保もちゃんと休むんだよ。伊藤からメールがあったんだ。大久保がヤケ仕事してるって』 むっ。 俺はブランケットを被って、木戸さんに言った。 「それぐらいしないと気持ちが落ち着かなかったんです。こうして家に帰ってきても貴方はおられないし、明日起きてもひとりですし……仕事で疲れれば、ぐっすり眠れるかなと」 『…………』 (……) まずい。木戸さんが黙ってしまった。怒らせただろうか。 「き、木戸さん?!」 『……』 「あの、お怒りですか?せめて声を聞かせてください」 『…』 ああ、どうしよう! 俺が慌てたときだった。 『(すーすー)』 「え……」 もしかして、眠ってる…? 「木戸さん、あのぅ、寝てますかー?」 『…すー……』 寝ちゃってる… 俺は小声でおやすみなさいを言うと、Pi…と携帯を切った。 俺に「おやすみ」を言ってくれると約束してくれたのに 絶対だって言ってくれたのに でも、俺が「おやすみ」を言えたから、それでいいか。 彼は明日の夜も電話してくれるような気がする。してくれなくても、携帯メールぐらい、入れてもいいよな。 いつまでもスネてないで、木戸さんが戻るまで、俺は趣味の料理の腕を上げることにしよう。美味しい店を散策して、木戸さんの好きそうな味を探したり、いつか木戸さんとふたりで歩けるような散歩コースを歩いたっていいではないか。 「ふむ」 木戸さんは夢もみないで眠っていることだろう。 おやすみなさい木戸さん 俺ももう寝て 明日一日を楽しんで過ごそうと思う 1 / 5 >>
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