Diary & Novels for over 18 y.o. presented by Reica OOGASUMI.
Sorry,this blog is Japanese only.
最終更新21th Sep.2021→「Balsamic Moon」全面改装 偶然会った坂本と料亭に入って飲食して、帰宅したのは午後十時。料理は美味かったし坂本は相変わらず面白い男なのだが、やはり木戸さんが足りなかった。 「はぁ…」 ひとりきりの部屋というのは虚しいものだと感じるのは実に久しぶりだ。 寂しいとか、ひとりぼっちというのとは違い、彼でなければこの溝は塞がらないのだ。 俺はさっとシャワーを浴びて、夜食を食べながら今夜はテレビをみまくることにした。 リモコンでチャンネルをぱちぱちしていると、画面にいきなり木戸さんの映像が出てきた。 「うっ……」 いまの俺の心臓にはいちばん悪い映像なのに、それでもいちばん嬉しいのは何故だろう。俺はボタンを押す手を止めて、画面を見続けた。 ニュース番組に一瞬登場しただけだったが、彼の顔は真剣そのものだった。 俺はその向こうにある彼の笑顔を知っているのだ Turururu… はっとするとテーブルの上の携帯が鳴っていることに気がついた。慌てて俺はボタンを押した。 「もしもし」 『……あ、…大久保?…私だ』 声の主は木戸さんだった。 「木戸さん…」 俺たちは互いに今日あったことを喋った。今日の東京の様子、下関の様子、俺が坂本と会食したこと、木戸家で行われたパーティでのこと… そうして話題が尽きれば、互いを労わる言葉だけが時を埋めていく。 「木戸さん、いまおひとりですか…?」 『そうだよ。自分の部屋にいる…大久保は?寝室?』 「いえ…下のリビングのソファの上です」 『…もしかして寝転がってる?』 「お察しの通りで」 俺がそう言うと、携帯の奥で木戸さんが「あはは」と笑った。 『じゃぁ私も寝ようかな…』 「…お疲れなんじゃないですか?移動だけでも大変だったでしょうに」 携帯から、ごそごそという音が聞こえる。木戸さんはベッドに入ったようだった。 東京から下関まで新幹線で五、六時間はかかるのだ。そのあと歓待パーティに出席となると大変だろう。 「今夜はぐっすり休んでください」 『…ベッドに入らせてもらったよ。すまない…』 「明日もお忙しいんですか?」 『んー………私がメインではないから、そこそこじゃないかな』 「…せっかくご実家におられるのですから、ゆっくりなさってくださいね」 心配だなぁ。木戸さんがメインじゃないとは言え、木戸さんは唯一の国会議員じゃないか。接待されるというよりも、接待する側になってしまいそうだ。はぁ。 『…大久保もちゃんと休むんだよ。伊藤からメールがあったんだ。大久保がヤケ仕事してるって』 むっ。 俺はブランケットを被って、木戸さんに言った。 「それぐらいしないと気持ちが落ち着かなかったんです。こうして家に帰ってきても貴方はおられないし、明日起きてもひとりですし……仕事で疲れれば、ぐっすり眠れるかなと」 『…………』 (……) まずい。木戸さんが黙ってしまった。怒らせただろうか。 「き、木戸さん?!」 『……』 「あの、お怒りですか?せめて声を聞かせてください」 『…』 ああ、どうしよう! 俺が慌てたときだった。 『(すーすー)』 「え……」 もしかして、眠ってる…? 「木戸さん、あのぅ、寝てますかー?」 『…すー……』 寝ちゃってる… 俺は小声でおやすみなさいを言うと、Pi…と携帯を切った。 俺に「おやすみ」を言ってくれると約束してくれたのに 絶対だって言ってくれたのに でも、俺が「おやすみ」を言えたから、それでいいか。 彼は明日の夜も電話してくれるような気がする。してくれなくても、携帯メールぐらい、入れてもいいよな。 いつまでもスネてないで、木戸さんが戻るまで、俺は趣味の料理の腕を上げることにしよう。美味しい店を散策して、木戸さんの好きそうな味を探したり、いつか木戸さんとふたりで歩けるような散歩コースを歩いたっていいではないか。 「ふむ」 木戸さんは夢もみないで眠っていることだろう。 おやすみなさい木戸さん 俺ももう寝て 明日一日を楽しんで過ごそうと思う
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