Diary & Novels for over 18 y.o. presented by Reica OOGASUMI.
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      最終更新21th Sep.2021→「Balsamic Moon」全面改装



 朝の九時に下関を発って、一度小倉に行って、新幹線に乗り換えれば、あとは椅子に座っていれば東京に着くことになる。
 仕事で行ったわけではないから、私には秘書のひとりもついていない。だから荷物も少なめで軽くていいのだが、往路で隣の客にこっそりサインを求められたので、今度はなるべく誰にも気づかれないように、車内でダテの眼鏡をかけていた。
『なにをされても貴方の場合、バレバレですけど』
 私がプライベートでどこかに行くときに使う眼鏡をみて笑った大久保の顔を思い出す。
『…そんなに似合わないか?』
『お似合いですけど、ますます「木戸孝允です」とアピールする結果になってしまうんですよ』
『……じゃぁどうすればいいんだ』
 困惑した顔で私が言うと、大久保はにやりと笑って言うのだ。
『ならば私が隠してあげますよ』
『!…』
 私は彼のコートのなかに隠されてしまって
 むきになって私を隠そうとする大久保が面白くて笑った。

 改札口を出ると、視界の奥に大久保の姿がみえた。
 あのとき私を隠したコートを着こなして。
 誘われるように私は歩き出した。
 行き交う人の群れ…止まることの無い、足音…
 その先に彼がいて…
 だんだん彼との距離が縮まっていく。
 ほんの二晩離れていただけなのに、とても懐かしいのは
 やはりここが私の息をするところだからだろう。
 ああ帰ってきた。私は帰ってきた…
「ただいま……」
 そうして私は彼の胸に飛び込むのだ。
autor 覆霞レイカ2012.07.26 Thursday[01:58]
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