Diary & Novels for over 18 y.o. presented by Reica OOGASUMI.
Sorry,this blog is Japanese only.
最終更新21th Sep.2021→「Balsamic Moon」全面改装 覆霞の趣味をバリバリ入れた18禁(と言っても温い)です。
今週末は、上司に連れられて所謂「政治資金パーティ」に参加してきます。招待なので、覆霞は無料です。 ついにライラシリーズが、当ブログで最大の作品数になってしまった……ライラ、恐るべし。 __________________________
※※ 18歳未満の人は、絶対に読んではいけません ※※ __________________________ BGM: Straight Through My Heart/Backstreet Boys Thanks for their singin' spirits! 古来、神道に於いて、刀剣は神器であり、魂の籠った神そのものでもあった。故に、創成以来「自由の剣」を標榜する飛天御剣流にとっても、皇室のみは別格であり、新年一般参賀の前に行われる御前剣舞奉納は、実に見事なものである。 幻の存在とされている飛天御剣流の現継承者である比古清十郎が、世界的陶芸家の新津覚之進であることを知る人物は非常に少なく、この俺も半年前まで全く知らなかったが、微笑を浮かべられた今上が興味深そうに、比古の放つ気と剣舞が、しんと静まり返った空間を切り裂き、敷き詰められた砂利が木枯らしのように宙へ高く巻き上がっていくのをご覧になる姿を、勝っちゃんに同伴して皇居に詰めていた俺は、右斜め方向から見ていた。 比古の剣舞によって、空間のそこここが、その荘厳さにぴしりと音を立てるかのようにして更に冴えて行く。御前だと言うのに表情ひとつ変えずに、濃紺の袴の上に、同じく濃紺のたすきでたすき掛けされた純白の羽織の袖が流れるように揺れて、宝刀・桔梗仙冬月(ききょうせんふゆつき)が睦月の冷たい空気のなかで煌めくのを、警察官の正装を纏った格好をしている事も忘れて、ぽかんと口を開けて見ている俺は、さぞかし滑稽に映ったことだろう。 気と刀によって繰り出される風圧だけで砂利が巻き上がっているのに、比古の漆黒の髪や濃紺の袴は塵ひとつ付いていない。 完敗だ。これが、地上最強の男なのだ。 そう思って、ごくりと喉を鳴らした俺の横で、勝っちゃんはじっと比古の剣舞を見ていた。勝っちゃんは比古の四人前に剣舞奉納を終えたばかりである。毎年ここで奉納剣舞をする勝っちゃんとは違い、秘剣である御剣流は、創成以来十年に一度の奉納と決まっている為、実際に目の前で飛天御剣流剣舞を見るのは、勝っちゃんも俺も初めてだった。数年前まで天然理心流の剣舞は、勝っちゃんの養父である近藤周助師範によって奉納されており、理心流内で比古の剣舞を見たことがあるのは師範だけだったのだ。 戦国時代よりも前から伝わると言う飛天御剣流は、分派されたことが無い古武道の一つで、代々、剣技と比古清十郎と言う名を継ぐと言う、秘剣中の秘剣である。速く重い剣として知られ、実戦技法だけでなくその美しさが評判の割に、真実を見たことのある者は殆ど居なかった。半ば伝説と言われていた飛天御剣流が再び世で知られるようになったのは、緋村剣心と言う警察官が全国警察剣道選手権大会に初出場し、いきなり優勝したからである。 警視庁第一方面神田署 緋村剣心 飛天御剣流 とのアナウンスが流れた時、武道館が大きくざわめいた。団体戦準決勝で負けた事で俺にどつかれていた総司が、床に伏せていた顔をがばっと上げたのだ。総司は結核が再発していて、ここのところ体調不良が続いていたが、顔色が急に良くなったのを覚えている。 『飛天御剣流?! いま、そう言いましたよね、アナウンス』 『お、おお、確かに聞いたぜ。マジかよ、神田署っつってたな』 興奮した俺と総司が、個人戦の会場に向かうと、試合場は既に人だかりが出来ていた。何とか観戦しようと、試合場の片隅から漸く持ってきた椅子の上に乗っかって、試合を観た。 飛天御剣流の警官は俺よりも遥かに小柄で(どう見てもチビ)、だが強かった。小さな体で、確実に取った。小柄を生かしてのすばしっこさだけでなく、構えや踏み込みのいちいちが決まっており、圧倒的な速さで勝ち上がって行った。おまけに、個人戦準決勝が始まる直前に、どこでも大人気の木戸孝允が入って来て、緋村の応援を始めた。緋村は木戸の、高校の後輩だと言う。神道無念流の天才も会場に来たとあって、武道館の盛り上がりは過去にないほどに凄まじかった。 個人戦決勝は、キャリアの癖に馬鹿みてぇに強い本庁の斎藤一と、緋村が戦った。三本目で緋村が勝ち、それが、飛天御剣流の名が俺たち警官の間で一気に復活した瞬間だった。 優勝後のインタヴュー記事には、意外なことが書かれていた。緋村は幼少時に親を亡くし、とある人物に引き取られ、警察学校に入る直前まで育てられていた。 その男が、飛天御剣流十三代目・比古清十郎であった。 記事には、緋村は十四代目を継承する為に比古に引き取られた訳では無いから、いまは飛天御剣流よりも警察官としての自分を全うしたい、この優勝でやっと師匠も拙者を認めてくれるかも知れない、と言う緋村の言葉も書かれてあった。また、緋村の保護者は比古で後見人は木戸孝允、ともあった。 飛天御剣流の継承者に育てられ、木戸孝允から後見されている緋村と言う警官は、所謂制服組で、掴みどころの無い性格であり、詰めが甘く、はっきり言ってでくの坊らしかった。緋村さんがうち(日野署)にいたら、絶対土方さんにどつかれますよね、と総司が言うくらい、酷かった。剣を除いては全くの凡人で、目立たないことこの上なかった。 そう言う意味で、飛天御剣流は俺にとっては非常に興味深く、同時に意味不明の存在に思えたのだが、こうして本物の比古清十郎を見ると、 「凄ぇ」 の一言しか出なかった。 比古が剣舞を終えて深く拝礼して御前を下がると、全部で十六流派あった全ての剣舞奉納が終わり、一般参賀の準備に入る。俺は素早く着替え、ごった返す大手門を出なければならない。比古の剣舞を脳裏で再度思い描いた俺は、警察官に似合わぬ面妖な面を、そろそろ突入してくるであろう一般参賀者から隠すために、さっさと私服に着替えてレイバンをかけた。署長である勝っちゃんは警察官正装のまま日野署に戻り、パトロールをした後で、試衛館道場で剣舞披露をするのだ。俺たちは大手門を抜けた後で別れ、俺はここと同じく千代田区内の、料亭が立ち並ぶ閑静な石畳を目指して、参賀者の波の中を何とか潜り抜けた。 皇居周辺は相変わらず厳重な警備が敷かれ、多すぎる人の数に埋もれていたが、メトロで一駅分離れた料亭が立ち並ぶこのエリアは、料亭が休みとなる年始のみは嘘のように静かで、竹藪がさわさわと鳴る他には、石畳を叩く俺の足音しか聞こえなかった。 道なりに歩き、三つめの角を曲がって、また道なりに行くと、高い垣根に囲まれた竹藪と広大な敷地が見える。その敷地内駐車場で、434 AMG ルマンレッドのメルセデスSLS AMGのガルウィングが冬空に向かって立ち上がり(「公式写真はこちらをクリック」、「ルマンレッドはここをクリック」)、袴姿の比古がちょうど運転席から出てくるところだった。 「よぉ」 目ざとく俺を見つけ、ニヤリと笑うのは、先程皇居の神楽舎で周囲を圧倒した十三代目とはまるで異なる、物好きで変態の、どうしようも無い男である。 「なんだ、警官正装は脱いじまったのか? 似合ってたのによ」 「今頃、勝っちゃんの車のなかで日野署に向かってるだろ。この面(つら)であんなの着て歩いたら、俺は一生、都内を歩けねぇ」 言うと比古は、ニヤニヤ笑いを更に悪化させて、AMGの後部座席から、房付金襴扇模様の正絹の刀袋に入れた桔梗仙冬月を取り出した。天才と名高いこの男にとってこの世で最も大切なそれは、飛天御剣流に代々伝わるもので、奉納剣舞を除いては世に出ることが無い。比古と比古の屋敷に住む者を除いては、刀鍛冶と研師(とぎし)ぐらいしか存在を知らないそうだ。戦国時代を含めて何百人の血を吸ったか知れないとされる宝刀は、比古が上京する際には普段、この屋敷の最奥に位置する和室の、床の間にある黒檀の刀掛けに置かれている。 開け放した和室で、刀身が月光を浴びて白く輝く姿に見惚れて、吸い込まれそうになる度に、比古は繰り返し言って来た。 近藤はやめろ、あいつはお前の為に、全部を捨てるような漢(おとこ)じゃねぇよ 分かり切ったことを言われても頑として動かない俺の心を揺さぶるように、飽きもせずに俺を抱くのだ、 たぶん今夜も。 1 / 1
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