Diary & Novels for over 18 y.o. presented by Reica OOGASUMI.
Sorry,this blog is Japanese only.
最終更新21th Sep.2021→「Balsamic Moon」全面改装 俺だ。
今日は朝から気分が良いから、お前らに、俺のレシピを教えてやる。ギャラは要らねぇ。その分、しっかり国に貢献しろ。しなけりゃ、俺がアッパーカットとエルボードロップを喰らわせてやる。…あ? 逮捕してくれ? ……山崎みたいなこと言うなよ。 とにかく、教科書を開け。14ページ。 ルーとソースを使わないハヤシライス(二人分)だ。 ちゃんとエプロン着ろよ。 その前に、手を洗え。無添加石鹸を使うんだぜ。 1、まず、材料の確認をする。 国産豚の小間切れ 1パック(200グラム) 牛肉でも構わねぇが、俺は牛肉は食わない。 お前ら、食うのか? 飽和脂肪酸だらけだから、頭悪くなっても知らねぇぞ。 ダイエット中なら、鶏肉のささ身にするか、肉自体やめちまえ。 にんにく 大きめ一かけ なす 小2本か大1本 トマト 中2個 エリンギ 大1本と小1本 玉ねぎ 1個 かぼちゃ 1/8個 オリーブオイル 大匙2 天然塩 小匙1/2ぐらい ローリエ 1枚 ブランデーかワイン 150㎖前後 俺はサントリーのV.O.を使う。家で余ってるから。 赤ワインにするとハッシュドポークに、白ワインにするとラタトゥイユ風になるぜ。 てんさい糖 大匙1〜2 (米粉 大匙1〜2) 炊いた米 好きなだけ うちは、栄養価が高い発芽玄米だ。 他に入れたいモンあれば、入れて良い。自己責任でな。 ローリエは、実家の庭で育てているものを使ってる。無ければ大人しく店で買うか、自分で育てろ。山崎を指導役で派遣してやる。 …あいつ、将来絶対にオリーブオイルを自分で作るとか言い出してよ……小豆島とかじゃねぇと作れねぇと思うンだが、日野でどうやって作るつもりだろうな… 2、よし、気合入れろ。下準備をする。豚肉から余計な脂を外すぜ。 豚肉の脂も飽和脂肪酸だ。昨今の日本人は喰い過ぎで、血管が良く詰まるだろ。心筋梗塞とか脳梗塞とかって。あれはよ、血管のなかに余計なモンが出来て、それが血管の中で日々成長するから起こる。飽和脂肪酸は、常温だと固体になる。昔、理科の教科書で習ったろ? 気体、液体、固体って。豚肉の脂は、血管の中で、固体になるんだ。だから血管が詰まっちまう。怖ぇだろ? だからきちんと脂は外せ。外さねぇと、俺、じゃなくて、てめぇの血管にブチ殺されるからよ。脂を外したら、好きな大きさに切れ。 なすはテキトーにイチョウ切り。 かぼちゃは種を取り除いて、1センチ角に切る。 エリンギは縦4つぐらいに切り裂いてから、小指の先くらいの大きさに切る。 トマトはざく切りして、種は取り除く。暇なら、湯むきしろ。 玉ねぎは薄切りか1センチの角切りだ。 いま言った野菜は全部、うちの実家で作った無農薬野菜だ。百姓舐めんなよ。 3、にんにくは微塵切りな。俺は山南の面を思い浮かべながら、包丁の背で潰す時がある。 4、無水鍋にオリーブオイルと、3を入れて、弱火で加熱する。香りが出てきたら、2の豚肉と、トマト以外の野菜を入れる。 5、少し火力を強めて、4を全体的に炒め合わせて、天然塩を加える。こうすると、野菜から水分が出て来て、無水鍋的になる。それからトマトを加えて優しく混ぜろ。いいか、優しくだ。 6、5にローリエとブランデー(かワイン)を入れる。沸騰したらアクを取って、蓋をして15〜20分煮込む。鍋蓋の蒸気口を調整出来るなら、中の水位を見ながら蒸気の出方を調整しろ。ちょうど二人分になるぐらいの量に水分が減るまで調整出来たら、無水鍋のプロ名乗っていいかもしれねぇ。 酒の種類によって、味の甘味が違うから、途中で蓋を開けて、てんさい糖を使って味の調整をした方が良い。 てんさい糖を入れる前の時点で、びっくりするほど、濃い味だろ? 野菜ってのは、ほんとはこんなモンなんだよ。農薬を使った野菜だと味が薄くなる。だから、ソースとかケチャップとかを入れなけりゃ料理らしくならねぇが、それはお前らの料理が下手なんじゃなくて、農薬の所為かも知れねぇってことだ。 味が濃すぎると感じたら、米粉で調整すると良い。ダマにならないように気を付けるんだぜ。米粉を入れることで、とろみがつきまくる。小麦粉よりももちもちしてるしな。 発芽玄米や白米が無い時には、ジャガイモを蒸かして食え。フライパンで焼くのも旨いぞ。スライサーで下ろして、ハッシュドポテトみたいにした時があってよ、あン時ぁ、山崎がすげー喜んでたな。坊ちゃん育ちだからか、こう言う普通の料理が嬉しいみてぇだ。 これで完成だ。 な? ソースなんて要らねぇだろ? 市販のウスターソースやらケチャップやらは、食品添加物の塊だ。最近漸く、無添加のモンが出て来たらしいが、じゃぁ材料の野菜や水はどこのモンだって疑問が残ってる。材料でまた農薬使ってりゃ、話にならねぇからな。俺の体は、その辺に売ってるケチャップだけでも、皮膚に湿疹が出ちまうんだよ。 俺の実家は、死んだお袋が無水鍋を良く使ってて、料理番だった叔母や姉貴たちが、このレシピで作ってた。で、ガキの頃から俺も手伝わされてたってわけだ。 二十代の頃、俺は区内の警察署で刑事やってて、そのときはどうしても外食が多かった。無茶もしてたしよ。去年までの体調不良は、その頃の反動らしくて、細胞のなかに溜まりに溜まった余計なモンを、体が何とかして吐き出そうとしてたんだと、為兄が言ってた。 吐き出し終わった今は結構元気で、シークレットサービスにも精が出せるし、試衛館道場の稽古にも行けるようになってきた。今年は無理でも、来年は剣道大会にまた出られるかも知れねぇ。少しでも体作ろうと思ってよ、山崎と暮らして以来、自分の体に野菜を大量投入してる。 体は正直だな、野菜農家で育った俺は、緑黄色野菜の量を増やした途端に、疲れ辛くなった。サロニカのものを使いまくってることもあるが、肌がなぁ、カサカサしなくなったンだよ。コラーゲンを作るのにビタミンCがすげぇ重要で、前のマンションで一人暮らししてた際にも、ジャガイモやら生野菜やらは喰ってたんだが、コラーゲンは、人体の蛋白質のおよそ三割を占めてる。 で、俺はコラーゲン異常だろ? ビタミンCが少なくなると、真っ先に筋肉と関節に来るんだよ。だがコラーゲンは肌にもある。女のお前らにとっちゃぁ、死活問題かもしれねぇ、肌だ。肌のなかの、真皮って部分の七割がコラーゲンなんだが、俺の場合、そこも異常だ。だからよ、疲れが酷いと、肌も辛くなる。冗談でなく、ボロ雑巾のようになって、布団に入って兎に角寝たくなる。それでも全身が痛むから辛ぇのなんの… 去年はあまりにも辛くて、自暴自棄になってたンだが、何とか立ち直った今は、カサカサしない肌で台所に立って、毎日包丁を握れるようになった。勝っちゃんと別れたことで新宿に行く機会も無くなり、外食の頻度も減って、今は月に一度ぐらいしか外食してねぇ。 俺が台所に立つと山崎がやって来て手伝おうとするが、俺が「良いから、花の世話してろよ」と言うと、リビングにあるホンコンカポックやらユッカやらに水を遣り、アルコールで葉の裏の消毒を始めるのが常だ。何故なら、前に比べると少ないが、俺が時々リビングで喫煙するから。ヤニが植物の葉の裏につくと、葉の裏にある気孔が塞がって、葉っぱが呼吸出来なくなるそうだ。 山崎は俺のことを、「手を抜けない性格」と言うが、俺に言わせりゃ、山崎のほうが手抜きと無縁の性格だ。良い年した刑事(デカ)が、アルコールスプレー片手に、葉っぱ掴んで消毒だぜ? しかも妙〜に丁寧にやるのな。観葉植物だけでは飽き足らず、薔薇やアメリカンブルーとか言う花も育てていて、とうに開花期を終えたアメリカンブルーの緑の葉を、もさもさと茂らせて喜んでる。 丁寧に手入れされた花や草を見つめる山崎を眺めると、なんだかこっちまで柔らかい気持ちになって来やがってよ…… 変わったヤツだなぁ、と思う。こいつは俺を追い掛けて日野に来ただけでなく、女までも振ったのだ。 市内にある「赤べこ」と言う小料理屋の女将で、双子の姉である関原妙と言う女と、昨日の昼に会った。聞き込みで、たまたま店の周辺を歩いていた俺を見つけて、妙の方から俺に近づいて来たのだ。 妹が大変お世話になってます、と妙は頭を下げた。双子の妹の関原冴は脊髄に出来た悪性腫瘍が原因で寝たきりになっていた時期があって、その時に俺が仲介してサロニカに通うことになったのだ。サロニカに通いだして、冴は次第に動けるようになり、女将としてはまだ働けないが、自分の身の周りのことはだいぶ出来るようになっている。時々、妙と二人でリハビリの為であろう、多摩川河川敷をゆっくり歩いている姿を、見かけることがあった。 だいぶ良くなってきたのか?と聞くと、白い頬を少し染めて、はい、と答えた。視界の端で、俺とコンビを組んでいる総司が向こうから走ってやってくるのが見えたが、俺は妙の顔に釘づけになっていた。 初めて会った時に比べて、随分顔色が良くなった。あの時は、かなり蒼褪めて頬がこけ、体もげっそりしていたが、薄化粧をしているとは言え、今は健康的な薔薇色の頬と唇をしている。大阪弁のイントネーションが軽やかで、柔らかい彼女の声に彩を添えているように聞こえる。二重の大きな茶色の瞳に、俺の姿が写っていて。 由美とはまるで種類は違うが、すげぇ美人じゃねーか、この女。 俺が、ぼーっと妙の顔を見ていると、ひっじかたさん、と総司が、俺と妙の間に顔を出した。 『関原さんと、何のお話です?』 『いかにてめーがアホでマヌケかって話』 『酷いですよ、それ!!』 総司が怒ると、くすくす、と薄紫色の和服を着た妙が、袖で口元を隠しながら笑った。土方さんて、いっつもこんななんですよー、酷いでしょー、と総司が喚く。 『もう決めました。今夜は妙さんのところで夕飯いただきます。永倉さん誘って、武田さんに奢って貰うんだ絶対』 『安心しろ、俺の予定じゃぁ、今夜は事件の山だ』 『どうして分かるんですかー』 『勘だよ、勘。俺の勘は外れたこと無ぇだろ』 そー言うの、やめて下さいよ、言葉が現実を作るって言うじゃないですか、などど喚く総司を、妙は楽しそうに見た。それから総司は、妙の両手を取って妙に懇願し始めた。 『妙さん、僕は今夜、肉じゃがコロッケとバーニャカウダと、鮪ステーキの湯葉巻が食べたい』 『はい。しっかり仕込ませて貰います』 やったー! 妙の返答に、総司が両手を上げて喜んだ。ニコニコ微笑んでそれを見ていた妙は、次に俺のほうを向いて、こう言った。 『宜しかったら、土方さんも、いらして下さいね』 言われて思わず、目を瞠ってしまった。 妙にとって俺は、恋人を奪った相手(しかも男)だろうに。 『美味しいもの、ぎょうさん作りますさかい』 しかし妙は、ふわっと微笑んで、そう言ったのだ。 山崎は、あの女と付き合っていた。二人は高校の同級生だと言う。付き合いたい、と言ったのは妙のほうだったらしいが、あの山崎の性格からすると、恐らく大事にしていたのだと思う。俺だって殆ど毎晩…… いや、だからよ。 水場と、観葉植物だらけのリビングに挟まれたカウンターの向こうで、草花をいじる山崎を見ると、……あんな綺麗な女を振って、この俺を選んだのかよ……と、いつも思ってしまうのだ。 結局昨夜は、珍しく俺の勘が外れて事件は起こらず、総司に腕を引っ張られて、俺と山崎は、永倉と武田が待つ「赤べこ」で夕飯にしたのだ。 冴はまだ店には立っていなかったが、リハビリの一環で、開店前にテーブルを拭いたり店内用の花を活けたりしているそうだった。 店では、妙の他に、燕と弥彦と言う若者が、てきぱきと動いていた。俺たちの他にも客は結構居て、満員とまでは行かなかったが、繁盛しているようだった。飯が美味いだけでなく、美人の妙と、おどおどはしているが可愛らしい容姿をした燕を眺めるのが、顧客の目的なのかも知れない。 山崎は、関西風の、彩が鮮やかな炊き合わせや筑前煮を食べて、はー、と息をついていた。刑事になると、余程暇でもない限り、しっかり出汁を取る料理が基本的に出来ないからだ。母親が東京育ちであるとは言え、山崎自身は大阪で生まれ育った為、薄味がどうしても懐かしく感じるらしい。為兄の指導で、関東とは言え割と薄味で育った俺も、妙の味付けには全く歯が立たなかった。 山崎の為にも、これからはちょくちょく、ここにも顔出した方が良いのだろうか。 そう思いながら、俺は総司がいつも注文すると言う、鮪ステーキの湯葉巻を口に放り込んだ。湯葉は、妙の手作りなのだそうだ。生湯葉では無く、乾燥湯葉である。乾燥したそれを再び湯で戻してから、鮪などにくるりと巻き付ける。流石に旨かった。やるな、この女。 永倉のように大酒家では無い俺は、最初のビールを一杯と、日本酒を少し飲んだだけだったが、妙の醸し出す柔らかい空気に毒気を抜かれたようになって、目の前の料理にはしゃぐ総司や、酒の薀蓄を語りだした武田と永倉を眺めながら、俺の隣で舌鼓を打つ山崎の呼吸を聞いて過ごした。妙を選んでいたのなら、山崎にはここでの生活が、待っていたのだろうに。間違いなく妙は山崎を、大事にしたのだろうに。 午後十時頃に「赤べこ」を出た俺たちは、タクシーでまっすぐマンションへ戻って来た。風呂から上がってすぐ、俺は山崎に押し倒された。俺はあなたが良い。ずっと、そう囁かれて。 目覚めた時、腰は痛かったが、心はすっきりと晴れていた。で、蘭姉が持ってきた無農薬野菜で、料理して今に至る。 無水鍋の蓋がしゅんしゅん言って来たのを聞きつけて、パキラの葉の消毒をやめた山崎が、俺の隣にやってきた。俺はスプーンで鍋からひと掬いして、山崎に味見をさせる。 「味、濃くねぇ?」 「いいえ。ちゃんと美味いですよ」 「……そうか?」 「愛情が、籠っていますから」 そうして俺を、エプロンごと抱きしめた。背中が、温かい。抱き合ったあと、二人で使ったサロニカのシャンプーの香りが、俺たちを包み込んだ。 (ふふん)良いだろ。 こいつは、誰にもやンねぇよ。 (―――――――覗くンじゃねぇ―――――――) …ふぅ。 ああ、次のレシピか? そうだな。体に良いもんがいいだろう。 決めた。「イナゴの佃煮」だ。 次回までに、各自イナゴを50匹掴まえて来い。余ったら、天婦羅にするからよ。酒のツマミにゃ最高だぜ。 なにぃ? イナゴが食えないだとぉ? てめぇ……百姓舐めんなよ。 ≪あとがき≫ ラブラブですの。 覆霞はイナゴの佃煮を食べて育ちました。今も、有楽町にある秋田県のアンテナショップ「秋田ふるさと館」に行けば、売っています。美味しいですよ。 イナゴの佃煮の湯葉巻を食べてみたい。きゅうりの千切りと一緒にくるりと巻く。やってみようと思います。
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