Diary & Novels for over 18 y.o. presented by Reica OOGASUMI.
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最終更新21th Sep.2021→「Balsamic Moon」全面改装 大久保が風邪をひいた。 「くしょん」 昨日風邪をひいていた私は寝ている間に沢山汗をかいたので、今朝はすっかり治っていた。だから、 「今日はお前が休みだな」 と、言ってやった。 大久保は鼻を啜って、ぐず…となっている。 「くしょん」 「さぁほら、寝た寝た」 私は何故か上機嫌である。いつも腫れ物のように接されているのが逆転して嬉しいらしい。大久保は叱られた子犬のような顔でそんな私をみた。 「木戸さんが看病して下さるのですか?」 「帰ってきてからはそうなるよ」 「ひとりで寝るのは嫌です」 「……なんの話だ」 「ですからつまりそういうっ、くしょん」 「そこまで言えるならひとりでも平気だろう?」 「……」 し〜ん。 大久保はずず…と鼻を啜りながら項垂れてしまった。鳶色の髪の毛がぱらりと揺れる。 …少し、言い過ぎたかな。 苦笑して、私は大久保の広い背中のほうへ廻り、彼の背中から彼の胸のほうに腕を回し、突然の私の行動に強張った大久保の背中に額をあてて静かに言った。 「昨夜はありがとう」 「……いえ…」 昨夜大久保は私が熟睡している間中、こまめに私の体の汗を拭いたり着替えをさせてくれたようだった。そんな大事にしてくれなくていいのに、と思う反面とても嬉しい。この我侭な矛盾さえも。 私は続けた。 「お前はいつも私の世話ばかりしているのだから、たまには役目を交換してくれたっていいだろう?」 大久保の背中がぴくりと反応する。 「……木戸さん…」 同時に大久保の掌が、彼の胸に回した私の手を包んだ。大きくてそのくせ冷たい指―――――私はこの指がとても好きだ。彼の広い背中も、低い声も、とても好きだ。 「大久保」 「はい」 「なるべく早く帰るから」 「…きっとですよ」 「うん」 「待ってますから」 「…うん」 帰る場所などないから大丈夫。お前の待つ、この家のほかには。
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