Diary & Novels for over 18 y.o. presented by Reica OOGASUMI.
Sorry,this blog is Japanese only.
最終更新21th Sep.2021→「Balsamic Moon」全面改装 眠る少し前の木戸さんの髪を、俺は梳いていた。俺のとは違う、芯があるくせに柔らかい真っ直ぐな髪の毛は、木戸さんの性質をよく現していると思う。綺麗に整っているときも、乱れたときも酷く美しく映え、周りのものを圧倒するから。 「……そんなに見るな」 「声が掠れていますよ」 「!…」 はっとして喉にあてた手を奪う。深夜、こういう状況でしかみられない顔の彼をじっとみつめる。自分だけに許されたのが嬉しいせいか、口走っていた。 「好きです」 いつになく真剣な眼差しで。 「……」 俺の変化に木戸さんも気づいてくれた。漆黒の目が開く。 「…お…くぼ…」 「木戸さん…」 俺は木戸さんに覆い被さるようにして、自分の想いを埋め込んだ。 「いってくる」 「お気をつけて」 朝。 彼は俺に背中をみせて、車に乗り込んだ。出発に際して、彼は決して振り返らない。 踏み出したら、進むだけなのだ。 振り返らない。振り返らない。 真っ直ぐに、透明で逞しい世界だけを目指して。 剣道だけで食べていける彼。 文章も書いていける彼。 もっと明るくて楽しい生き方があったのに 彼が選んだのは、透明でありたいはずの彼にもっとも相応しくない、政界だった。 彼が政界に身を置く限り、彼が俺だけのものになることはないけれど、 躊躇いも疑いも無く歩んでいこうとするこのひとの背中が 俺はいちばん、好きなのかもしれない。
|
||||||||||||