木戸さんが風邪をひいた。
「くしゅん」
 どうやら俺の目を誤魔化してでも出勤しようとしていたようだが、もちろんそんなことが叶うはずもない。
「くしゅん」
 陶器のような肌が上気して吐く息が僅かに荒い。ただの風邪なら良いのだが、木戸さんは俺に比べて病弱だから注意しなければならない。
「お風邪、ですね」
 今日の木戸さんの予定は出張も会議でもなく、ただ事務所で書類に目を通すだけだったはずだ。
「平気…だ」
「声が掠れています」
 言いながら俺は木戸さんの痩せた肩にカーディガンをかけ、彼に体温計を渡した。木戸さんは無言でそれを脇に挟む。
「7℃以上あったら木戸さんはお休みする、と坂本君に電話しましたから」
「な……」
 普段彼の体温に触れている俺には、いまの木戸さんが7℃以上あることなど分かりきっている。
「吐き気とかありますか?」
 木戸さんはふる…と横に首を振った。
「普通のもの、食べられると思うから…」
「分かりました」
 言って俺は、彼に悟られないように隠し持っていた薬包を自分の口に入れて水を含み、木戸さんにぐぐっと近づいて口移しに薬を飲ませた。
「!!!」
 味が伝わった途端、木戸さんの体が俺の腕のなかで強張る。…そう、口移しで飲ませたのは強烈に苦い漢方だったのだ。
 木戸さんは甘いものなら喜んで食べるのだが、苦いものはからきし駄目なひとである。つまりこうでもしなければ飲んでくれないのだ。
「……」
 舌を絡め顎を押さえて無理矢理飲み込ませ、俺は彼の脇から体温計を取り出して体を離した。木戸さんはこの世の終わりのような表情でそこに固まってしまった。いまにも泣きそうな顔の彼に、俺は追い討ちをかける。
「こんなものは二度と飲みたくないでしょう?」
 こくこく。
「では大人しく眠っていて下さいますね。お熱も38度2分ですし」
「……」
「でないと、もっと苦いのをみつけてきます」
「……知能犯」
 そこで彼は漸く笑ってくれた。
 どうかこうやって微笑んでいてください。
 俺のとなりで、いつまでも。



0時を過ぎました→O「木戸さん…」、K「……(断れない)」
1時を過ぎました→K「おおくぼ…あ、」
午前2時過ぎです→O「おやすみなさい」、K「おやすみ…」
午前3時です→O「(木戸とデートしている夢をみてニヤける)」
4時過ぎです→ふたりは熟眠中。
5時を過ぎました→O「(寝顔をみつめて抱き締める)木戸さん…」
6時を過ぎました→K「くしゅん」、O「(飛び起きて布団をかけてやる)」
7時を過ぎています→K「…(寒気がする)」、O「(そんな木戸を横目でみている)おはようございます」、K「……おはよう」
8時を過ぎました→O「(ずばっと)お風邪を召されましたね」、K「…平気」
9時を過ぎました→K「平気と言ったら平気だ!」、O「今しがた坂本君に電話しました。今日はお休みですよ」、K「な…!」、O「それでは私は行って来ます。大人しくなさっていないとあとが恐いですからね」
10時です→K「(諦めてベッドに入る)はぁ」、O「(木戸の病人食メニューを考えている)」
11時を過ぎました→K「(天井を見上げながら)暇だなぁ……(ころりと体の向きを変えると、シーツに落ちていた鳶色の髪の毛が目に入る)……(赤くなる)」
12時です→K「(本格的に熱が上がってきた)」、O「(昼食にしながら)木戸さんは大丈夫だろうか…」
1時を過ぎました→O「(木戸に携帯メール中)水分はしっかり取ってください、と」、K「(汗をかきながら熟睡中。ベッド脇にはポカリ)
2時を過ぎました→O「(仕事中)」、K「(熟眠中)」
ちょっとひと息3時を過ぎました→K「ああ……よく寝た…」、O「(間食を終えて)ああ、よく食べた」
4時を過ぎました→K「少しぐらい、いいよな(と、机の上にある資料をベッドに運んで寝ながらみ始める)」、O「(そんな予感がする)」
5時を過ぎました→O「(仕事終了。実は早く帰るために速攻終らせた)」、K「(坂本の携帯に「明日は行く」とメールして一度着替え、黙々と資料を読む)」
6時です→K「おかえり…」、O「今戻りました、きちんと休まれていましたか?」、K「うん」、O「……本当に?」、K「うん」、O「……」、K「(突然キスされてしまう)!」、O「…熱は舌で測るのが一番なんです。まだ高いですね」
7時を過ぎました→O「(おかゆを食べさせる)美味しいですか」、K「うん…」
8時を過ぎました→K「いいっ、ひとりで歩ける!」、O「(無言で抱き上げて寝室へ連れて行く。ドアを開けて木戸のベッドの上に本が重ねてあるのを悲しげに見る)…お休み中に読書されてはいけないとあれほど言ったのに…私の言うことは聞いていただけないのですか?」、K「…でも…仕事の資料もあるし…」、O「明日は私も休もうかな」、K「それはだめだ」、O「ならばこれらは没収です」
9時を過ぎました→O「木戸さん」、K「ひとりで入れるっ(と言ってシャワールームへ)」
10時を過ぎました→K「……」、O「貴方がそれを飲んで下さるまでここを離れませんから」、K「……(大久保から差し出された漢方薬を水とともにぐ…っと飲む)…苦…」、O「おやすみなさい(と額にキス)」
11時を過ぎました→O「今夜は添い寝だ(←今夜も、の間違い)」、K「(何も知らずに熟眠中。先ほど大久保に飲まされた漢方には催眠効果がばっちり入っていた)」

season2/// ◇MondayTuesdayWednesdayThursdayFridaySaturdaySunday
Back
覆霞レイカ・ぷれぜんつ