Diary & Novels for over 18 y.o. presented by Reica OOGASUMI.
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      最終更新21th Sep.2021→「Balsamic Moon」全面改装

 朝日がまぶしくて目が覚めた。

 一日ぶりに、体も快晴。

「おはよう」

 木戸さんが起きてきた。

「おはようございます」

「もう平気なのか?しかもそんな薄着で…」

 木戸さんは寒がりらしく、この頃はカーディガンを羽織って起きることが多い。対して、俺はシャツ一枚に薄いセーターを着るか着ないかなので、木戸さんの目には不思議に映るようなのだ。

「ロシアはもっとずっと寒いですよ」

「…それはそうだが」

 俺の答えに木戸さんは苦笑した。

 秋が過ぎ冬を越え、寒冷の地で迎える春は、なによりも貴重なものなのだ。鹿児島で生まれ育った俺は、ドイツに行って初めてそのことを知った。冬は暗く、空はいつも曇っていて、風が本当に身を切り裂いていく。手指も凍りつきそうな気温。

 けれど温かい室内で窓の外を眺めれば、一面の白が俺達を包み込んでいた。

「懐かしいですね」

 俺は言った。

「…クライトベルクのこと?」

「ええ」

「そうだな…」

 木戸さんに会い、木戸さんを抱いて、ふたりきりで過ごした時間が蘇る。閉ざされた空間で俺達は、なにものにも遮られることなく愛し合った。

「帰りたいか?」

 俺のほうに体を寄せた木戸さんが聞いてくる。その体を俺の片腕が抱き締める。

「いいえ」

 俺は答えた。木戸さんは俺の腕のなかで微笑む。

「お前らしい……」

 帰らなくていい。たとえどんなに美しい思い出のなかであっても、そこにいまの貴方はいないのだ。

 貴方も俺も、過去ではなく、いま、ここにいるのだから。
autor 覆霞レイカ2014.02.13 Thursday[16:43]
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