Diary & Novels for over 18 y.o. presented by Reica OOGASUMI.
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      最終更新21th Sep.2021→「Balsamic Moon」全面改装
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※※  どこからどう見ても妄想だけの文章です  ※※

※※  飲酒して酔っぱらってからお読み下さい  ※※

※※  閲覧中後にどうなっても責任負えません  ※※
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BGM  Bon Jovi the Greatest Hits all album
      http://youtu.be/P6gjFtly_nI










 日野市最大の駅前、二十四時間営業の大きなスーパーの目の前に立つ、高級分譲マンションの最上階は、今日もパタパタ…と小さな足音が響いている。

「ただいまぁ」

「とーさま、お帰りなさい〜❤」

「お帰りなさい〜❤」

 綺麗に掃除された廊下を、競うように走って現れた二人の女の子を、仕事帰りの山崎は、膝を曲げて腰を下ろし、同時に両腕を広げて、思い切り抱きしめた。

「ええ子にしとったかぁ」

「しとったよ〜」

「しとったよ〜」

 一つの問いに同じ答えがほぼ同時に返ってくるのを確認して、山崎はホッと息をついた。近所の日野小学校に通う二人は小学2年生で、季節の変わり目に生まれたことから、小春(こはる)と小夏(こなつ)と言う名の双子である。ピンクとオレンジのお揃いランドセルを背負って、家に帰る前に、土方家や試衛館道場隣にある近藤家に寄って過ごすことが多く、子供だけの放課後にならないように細心の注意を払っている。

 何しろ、この双子は母親の幼少時に似て、大変に可愛いのだ。おまけに性格は父親同様に、穏やかで優しく、大人しめ。変質者に、「どうぞ攫って下さい」と主張しているようなものである。無論、両親が警察官をしている山崎家では、子供が誘拐されるなどもっての外で、年々可愛くなっていく=「土方様」の容貌になる未来まっしぐらな二人を、安全な場所に預ける必要があった。選ばれたのは、日野きらきら幼稚園と日野小学校から歩いて数分の距離にある、土方家と近藤家だった。

 もとより大家族の土方家には、常に誰かが必ずいるし、近藤家は家長の勇が元日野警察署長で現在は天然理心流宗家、娘のふたばと息子の剣士が既に免許皆伝で、怖いもの無しなのだ。弟子たちも詰めているから、道場から見える広い庭で、幼い二人が伸び伸びと遊ぶことが出来る。パトロールついでに道場にやってくる沖田総司や本条鎌足に宿題を見て貰ったり、目出度く警部補になって今は日野警察署刑事課強行犯係長を務める永倉新八が非番のときは、愛犬の二代目パトラッシュのお散歩に付き合ったりして、安心安全な放課後を送っている。

 小春と小夏は、草花と動物が大好きだ。忙しい両親をもった所為で、あちこちの家に預けられた経験からか、その場の空気を読むことが得意であり、良い事と悪い事の区別がついている。大好きな「とーさま」と「かーさま」の帰りが遅くても、駄々をこねることは滅多に無く、聞き分けが良過ぎるところが心配なくらいだ。だからこうして山崎は、帰宅したら真っ先に二人を抱きしめることにしている。

 お揃いの、四葉のクローバーの刺繍が入った水色のシャツと紺色のキュロットスカートは、いまは良き友達の、由美のお手製であった。昔、ヤクザの情婦だった彼女を、由美おばちゃま、と二人は呼んで、可愛がって貰っている。銀座でナンバーワンだっただけあって、女の子を可愛くするのはお手の物の彼女は、細くて焦げ茶の二人の髪の毛をポニーテールにしたり、編み込みにしたりして喜んでいた。御蔭で、登校の前に「かーさま」が洗面所で二人の髪のセットに悪戦苦闘している。いくら、色んな意味で無敵な「土方様」も、朝の忙しい時に、自分の支度をしながら娘二人の完璧なスタイリングは、未だに難しいようだった。

 さて、その「かーさま」は、山崎の腕時計が午後七時になろうとしていても、まだ帰宅する気配が無い。彼は相変わらずの多忙で、早くても帰宅が夜八時になるのが当たり前だし、一週間近く帰って来ないこともある。まだ幼い子供がいる家庭で、母親が不在と言うのは教育上、宜しくないことは重々承知なのだが、いかんせん、鬼のように仕事が出来る為、仕事が彼を離してくれないのである。おまけに、総理大臣をしている坂本龍馬からの信頼が厚く、責任感の強い彼は、竜馬からの依頼を断れないでいた。もしかしなくても、「断れない男ナンバーワン」かも知れない。

 そんな愛しい人の姿を娘たちのなかに見出して、山崎は、右腕に小春、左腕に小夏を抱えたまま立ち上がり、サロニカ香と植物の香りが溢れる自宅の廊下を、広いリビングに向かって歩いて行った。

   うちのおかんは苦労性







 その頃の日野第一中学校。の、2−Cは、言いようのない恐怖に包まれていた。

「…え…、と、その……、ですね…」

 2−Cの担任の唇が、あからさまに震えている。担任の隣に座るのは、先程卒倒した教頭の代理を務める、校長であった。顔を赤くしたり青くしたりと忙しい二人の前には、実に憮然と、二人の心を破壊し尽すかの如き美貌があった。

 「かーさま」こと、土方歳三である。

 彼はこの美貌で、今日の二者面談で同席する筈だった教頭から、大量の鼻血を出させ、見事に卒倒させた実力の持ち主だ。ちなみに、眉ひとつ動かしていない。「山崎くんのお母様」と呼ばれて、振り返っただけである。2−Cの床には、無残かな、拭き取られはしたが、今も血痕が染みついていた。この男(母親だが)には何故か、血が似合う。

 多忙の彼は、殆どの場合、二者面談や三者面談で母親がやってくるところを、父親である山崎に参加を頼んでいたが、本日は、学校たってのお願いで、初めて二者面談にやってきたのである。ちなみに、入学式にも参加出来なかった。だから中学校側が、彼の美貌に撃ち抜かれたのは、今日が初めてだったのだ。

 警察官の割に優しい容貌をしている山崎丞氏を見慣れている担任と校長は、机ひとつを挟んだ距離で見る、三十代の頃からちっとも変らぬ「警視庁一の美貌」に茫然としたいのはやまやまであったが、「鬼の土方」の異名も持つ彼を前に、心身ともに引き締めまくる他無かった。

 先日、漸く三十五歳になったばかりの担任は、緊張しまくった面持で、三人に挟まれた木製の机の上に、恐る恐る白い紙を開いて見せてきた。

 ずらりとならんだ、「5」の数字は、中学二年生の成績表。五段階評価の、オール五である。

「わ、わたくしどもと致しましては、要(かなめ)くんの成績や素行に、なに一つ、申し上げることは、ございません」

 当然だろう。中学に入学して以来、「5」しか取ったことがない要は、時々体調不良になって保健室で眠るぐらいで、成績優秀、運動神経抜群、男子学生にも女子学生にもモテ、ご近所からの評判も良い。中学の帰りに、前後に子供乗せカゴを装備したママチャリを漕いで、土方家や近藤家に寄り、双子の妹を引き取って帰宅する要は、「忙しい両親の代わりに妹たちの世話をしたいから」と言う理由で、リーダーの素質がある癖に、学級委員にもならず、部活動にも入っていない。

 そんな姿を見かける日野市民は、「あの土方様から生まれたとは思えない程、心も言葉も優しい要くんを、何としても我が家の婿に欲しい」と、今から争奪戦を繰り広げている。生まれた時から虚弱体質で、自分とそっくりの姿かたちをした要を、誘拐などから守るために、土方家や近藤家に預けることにしたのは、誰を隠そう、「かーさま」であった。為兄のいるサロニカにも預けることは出来るのだが、サロニカは林の奥にあり、サロニカと学校近くの駅とを結ぶマイクロバスがやってくる時間が、要の下校時刻とずれている為、より便の良い実家と近藤家にしたのだ。

 要は、姿かたちだけでなく、コラーゲン異常もしっかり引き継いだ。肌と筋肉、そして関節が弱い。為兄の指導をきっちり守ってはいるが、体育の授業をこなした後で、強い疲労を訴えて休むことがあった。自分と同等の虚弱体質らしいと判明してからは、それまで続けていた剣道と空手のうち、より護身術の意味合いが強く、道場に通わずとも鍛錬が出来る空手の方を取った。結果として、ミミズバレと手足の肉刺(まめ)は無くなった。

 以来、他の生徒に混じって、グラウンドで走ったり、体育館でバスケットボールをしたりと、子供の頃の自分はあまり出来なかった活動をして笑顔を見せる要の様子を、近所のおばさまたちから多々聞くようになり、何も剣道に拘る必要は無かったのだ、要が幸せで、満足しているのなら、武道であれ単なるスポーツであれ、構わなかったのだ、と思うようになった。

 自分ではついぞ取ることの出来なかった、燦然と輝くオール5を見つめて、幼少時から大学生まで只管に剣道に拘って来た自分と要は、似てはいても別の人間なのだ、と噛みしめる。中学一年生の一学期から連続のオール5は、つまり、学年で成績が一番、と言う意味だ。体育も含めて。

「……………」

「……し、しかしですね」

「……?…」

「(睫毛エクステじゃないのに、どうしてこんな……)、ひ、ひとつだけ、申し上げたいことが、ございまして、今日、お忙しい中、わざわざお母様に御足労いただきましたのは、ハ、ハァ、…ほかでもない、要くんの、お気持ち、と言うものが故でございまして、」

「………要の気持ち、ですか?」

 それまで黙っていた土方が、ぼそっと言葉を発した。おお、麗しのテノール。担任と教頭は、今にも口から飛び出しそうな心臓をどうにか抑えつけて、教師としての使命を、清く正しく全うするべく、懸命に言葉を紡ぐのだった。

「は、はい。その…、保健室の、佐藤先生から、わたくしどもに、これまでに何度も、お話がありまして、一度お母様に、わたくしどもから、直接、お話をさせていただきたいと、思っていた次第で、ございます」

「―――――何でしょうか」

「…は、はい。…要くんは、保健室で休む時に、佐藤先生に、いつも仰るそうです……『妹たちは、絶対に寂しいとは言わないけれど、本当はお母様と、ずっと一緒にいたがってる。俺も、同じだったから分かる。我慢すればするほど、素直になれなくなる。だから俺は、妹たちと一緒に居てやらないと』……と」

「……………」







 愛車をマンションの地下駐車場に停めて、土方は、どよんと落ち込んでいた。京都で大活躍中の芸術家・比古清十郎が見たら、「俺様が一枚描き上げるまで、そのまま憂いていろ」と言うほどの、凄絶な美貌もとい憂い顔である。仕事中には決してこんな顔にはならないのだが、こと子供たちの話題になると、落ち込まざるを得なかった。

 自分が異様に多忙なのは、嫌と言う程分かっている。

 ノンキャリの身で、あちこちを出たり入ったりしながら、キャリア連中は決して出来ないプレイングマネージャーとして、キャリアとノンキャリの両方を陣頭指揮する業務は、表向きは午前八時半から午後五時半までで、実際は二十四時間勤務である。そもそも、要がデキるなど、全くの想定外であった。山崎と二人で、警察人生を全うするつもりだったのだ。しかし、デキたものを粗雑に扱うわけにも行かず、かと言って、キャリアの斎藤一ほど器用に兼業主婦をこなせるわけでもなく、要を兄夫婦や姉夫婦らに預けて、与えられた任務の為に突っ走るしか出来なかった。

 そもそも、警察官に、子供の為の自由な時間などと言うものは設定されていないと言って良い。家族旅行も無いし、海外旅行など夢のまた夢である。何とか踏ん張って、要の夏休み中に三日連続で夏季休暇を取ったものの、当の要が夏風邪をひいて寝込むのが毎年のパターンであった。尤も、為兄に言わせれば、要の毎年の夏風邪は「いつも気を張っている要が、母親である自分がずっと傍にいると分かって、安心しきった証拠」だそうである。だから、三十九度の熱を出して真っ赤になった頬をだらしなく弛緩させる要を、要の部屋ではなくリビングのソファに寝かせて、家事の合間を縫ってはずっと、要に膝枕をしてやる。それが、ここ数年の夏季休暇である。熱が下がって体の自由が利くようになると、要はシャツを羽織り、ダイニングからひきずってきた椅子をキッチンに立つ自分の傍に置き、膝を抱えてそこに座っては、要の為の粥やポタージュを作る自分を静かに眺めてくる。

 そう言うところは、山崎に似たと思う。

 言葉は決して、多くない。ただ、傍にいる。マンション中に溢れる植物のように、音も声も発さないが、静かに呼吸しながら、部屋の空気を作るのだ。二酸化炭素を吸い込んで酸素に変換するように、知らないうちにそこを浄化してしまう。そんなだから、どこに行っても愛される。小学四年生の頃には自然な笑顔が消えていた自分と異なり、もうすぐ十四歳になる要は、小学校の時から集合写真できちんと笑っていた。担任の言うことも、放課後に世話になる土方家・近藤家の大人たちとの約束も守った。奇想天外な展開で生まれた要の頭を撫でながら、蘭姉が言ったのだ、『トシも要ちゃんみたいに良い子だったら、私も、楽が出来たんだけどねぇ』。怪我をしまくっていた自分の病院通いに付き添っていた蘭姉は、要の授業参観に行くのを楽しみにしている。帰りに、由美の店に寄って紅茶を飲みながら、甥自慢をする為に。

 要は、所謂良い子なのだ。最近の子供のように、やたらと物品を欲しがったり、休みごとに遠方に行きたがったりすることは決して無い。年の離れた双子の妹たちが生まれてからも、反抗期らしい反抗期が無い為、こう言うのもなんだが、たった一つを除いては、極めて扱いやすい子供だった。だから―――――今日の二者面談で担任が発した言葉は、心臓に来た。

『俺も、同じだったから分かる。我慢すればするほど、素直になれなくなる』

 つまり要は、態度や言葉には出さなかったものの、母親と一緒にいたい、と言う気持ちを随分長い間、我慢していたのだ。

「…………」

 反省はしていたのだ。ワーカホリックな自分は、何もかもを忘れて仕事にのめり込む癖がある事と、自分に理解のありすぎる山崎に、心底頼り切っている事を。いや、寧ろ自分は、要を宿した時に、警察を辞めるつもりだった。生まれながらの虚弱体質で、しかも濃い遺伝子異常を持つわけだから、体質改善は出来ても、体の設計図である遺伝子は変わらない。その体で、子育てをしながら警察官を続けるのは、不可能だったのだ。

 しかし、そこは山崎が譲らなかった。『子供の面倒は自分がみるさかい、土方さんは警察続けて下さい! 何の為に俺が警察になったと思ってはるのや! 子育ては、何としても俺がやります!!』

 性格は大人しいが、行動力は人の数倍ある山崎は、パーキンソン病が完治した母親を呼び寄せて要の世話をさせた。面白がって大阪からついてきた父親には、買い出しと、毎日のオムツ洗いをさせた。肌の弱い要は、殆どの時間を布オムツを使っていたからだ。

 更に山崎は、自分の出世も捨てようとした。自分の為に、それだけはさせたくなかった土方は、坂本龍馬の相棒である木戸孝允に言って、閑職とまでは言わないが、出世に障ることのない席を準備させて、要を幼稚園に預けられるまでの間、昇任試験の勉強をさせ、警部補まで獲らせた。警部補の上の警部になるには、四年間の実務経験が必須である為、そこは耐えるしかなかったが、要が小学二年生の時に山崎が警部になって、木戸家の一言で、日野警察署の刑事課長に就任出来た。

 係長とは異なり、課長は捜査員の指揮や人事を統括するのが主な業務であり、自ら捜査に当たることは殆ど無いと言って良い。だから、土方があそこで係長をやっていた時とは違って、汗水垂らして日野市中を走り回る事は無かった。日野署で刑事経験のある山崎の刑事課長就任を、署内で誰よりも喜んだのは、署長を務める山南敬介だった。自分とは相変わらず合わないことこの上ない山南だが、山崎にとっては部下と上司の流れが再び出来た訳で、信頼関係のある二人の呼吸は、ぴったりだった。慣れた警察署での、阿吽の呼吸が出来る上司と部下の関係、更には強行犯係長の永倉とも旧知の仲であり、デスクワークがメイン業務となれば、山崎の気力体力ともに、帰宅後も十二分に保たれていた為、自宅での要の子育ては、殆どを山崎が為したのだ。

 お蔭で、要はパパっ子で、山崎を困らせることは絶対にしない。山崎にとって最愛の自分を困らせることも、基本的にしない。両親の言うことを良く聞き、土方家にも大阪の山崎家にも我儘を言わず、幼い妹たちを可愛がり、良く世話になっている近藤家でも大人しくしている。おまけに、成績はオール5で、学校からの評価も文句無しだ。

 要の評価は、日野市だけでなく、都心でも名高い。未だに独身を貫く竜馬と、男やもめ生活を続けている木戸孝允がいる首相官邸では、子供のいない竜馬と木戸が、競うようにして要を預かりたがった。警部補時代の山崎は、かつての自分がそうだったように、捜査本部が立ち上がるといつ帰宅できるか分からなかった為、護身の意味もかねて、皇居を除いては日本一のセキュリティを誇る首相官邸に、要を預けることが多かった。官邸には、籍は居れていないものの、事実上のファーストレディであるお竜(りょう)がいるし、彼女が不在の際には、木戸が、都内に住む自分の(血の繋がりはないが)兄夫婦を呼んだりして、要が寂しがらないようにしていた。

 そんな育ちをした為か、幼い頃から要は妙に大人びていて、大人に可愛がられるにはどうすれば良いのかを、それとなく身に着けていた。宿題のドリルを片付ける傍ら、竜馬や木戸が権謀術数を練ったり、各国代表を手玉に取ったりする姿を観察していたのも、要の成長に大きな影響を齎しただろう。竜馬よりも多少は時間に余裕がある木戸が、捜査本部に詰めている土方の働く姿を見せる為に、幼い要を連れて、現場視察に訪れることがままあったが、自宅にいるときとは異なり、気を張り詰めた表情をした自分を不思議そうに、首を傾げた要の黒い瞳がみつめていたのを覚えている。

 あの小さな瞳に、自分はどう映っていたのだろう。木戸の腕に抱き上げられた要の背中を見送りながら、そんなことばかりを考えていた。平日の帰宅が遅く、家庭に長くいられない分、公的には一応休日である土日は要といてやりたかったが、次に生まれた双子が手足に纏わりついて離れない所為で、要と土方との距離は開いて行く一方だった。それでも、家庭内不和は無いし、不登校や苛めも無関係の要は、つい先日、「警察官になりたい」の題名で書いた全国中学生作文コンクールで、警察庁長官賞を受賞したばかりだ。

 はっきり言って、完璧である。

 その完璧な息子に比べて、自分はどこまで、不完全なのだろう。

『大変お忙しいお仕事をされていることは、重々承知しております。しかし、週に一度で良いので、平日の夕方、日の沈む前に帰宅なさって、要くんとゆっくりお過しになることは、出来ませんでしょうか?』

 非常に申し訳なさそうな表情で担任が述べた懇願は、母親としての義務であり、やらなければならないと心で分かり切っていたことだった。生まれつき脆弱な体の要が、血圧がやや低下した状態で、保健室のベッドで一人横になって心細くなった際に、養護教諭の佐藤に、ぼそりと本音を漏らしたのだろう。心身ともに不安定な思春期真っ盛りで、それでも成績優秀で可愛い顔をした要が零す言葉に、佐藤の方が耐えきれなくなって、涙ながらに担任に伝えたのだと思う。

 どうもあいつには、人を動かす力があるのだ。

 要がデキた際にショックのあまりに失神した近藤が、成長する度に自分に似てくる要を抱きしめながら、「トシィ〜、もう一度俺とヤリ直さないか〜」と大泣きしては、要に頭をなでなでと慰められる有様だ。その近藤は、小春と小夏が生まれた時に、俺はもう駄目だ、と言って警察官を辞し、天然理心流の四代目を正式に襲名した。そして現在まで……自分そっくりの小春と小夏を近藤家に連れ込み、双子に「おじさま大好き(^-^)人(^-^)♪」と言わせて喜んでいる。彼は、双子のうち一人を、息子の剣士の嫁にしたいと、今から山崎にアピールしまくる馬鹿親父に成り下がった。かつての名署長の姿は、もうどこにも無い。若かったころの感傷も、いまとなっては過去の思い出なのだが、近藤にとっては、日に日に似てくる要を見るたびに、心臓が抉り出される感覚で、ひたすら辛いのだそうだ。

 ……なんで、俺たちの間には(ガキが)出来なかったんだろうな…あんなにヤリまくってたのに……

 てめぇの種付けが下手くそだったんじゃねーの?

 トシぃぃぃ━━━━━。゚(゚´Д`゚)゚。━━━━━!!!!

 近所の居酒屋の座敷で、こんな会話を繰り広げるおかしな二人を前にしても、要は自分の膝に頭を預けて静かに食後の一眠りを貪るか、幼い妹たちの相手をするぐらいで、余計な口を挟んだりはしなかった。それでも、涙の止まらない近藤の隣にすーっと移動して、にこっと微笑めば、悔し涙も嬉し涙に変わる。四代目が言うには、要は、母親から陰鬱さを七割取り除いた、明るさの伴う深紅の薔薇だそうだ。それゆえに誰からも好かれる性質であり、

 そんな要に、自分はひたすら甘えていたわけで…

 愛車のダッシュボード飾られた、要を中心にした家族五人の写真を見る。去年の要の誕生日に撮ったもので、要が欲しがった誕生日プレゼントだった。俺の誕生日に、みんなで撮った写真が欲しい。中学一年の男子が、果たしてこんなことを言うものだろうか。世間の中学生なる生き物は、もっと我が強く、年中反抗期で、親の言うことなど聞かないものだ。しかし要は、山崎が三脚カメラで撮影した写真を、自室のデスクに飾ったり、パスケースに入れたりしている。が、今日の二者面談の最後に、2−Cにある要のロッカーの奥に貼られていた同じ写真を見せられ、素行も聞き分けも良い要が真実に訴えているものは、ごく普通の子供らしい感情だったのだと、今更気づいた自分を、土方は心底呪ったのだった。






 溜息をつきながら広いエントランスを開け、くたびれたジャケットを脱いで、いったん寝室へ向かう。二人きりの頃自室として使っていた部屋は、いまは要の部屋であり、もともと大して物を持っていなかった土方は、衣類を全て寝室のクローゼットに仕舞っている。タオル地のバスローブと、100%コットンのワイドパンツに着替え、寝室を出る為に扉を開けた瞬間、廊下の向こうから「かーさま〜」の声が聞こえた。声のした方を見ようとすると同時に、二つの塊が左右の脚にぶつかってくる。

 ぽふっ

  ぽふっ

「お帰りなさい〜❤」

「なさい〜❤」

「…ただいま。髪、まだ濡れてるじゃねーか」

「とーさまが、にーさまに乾かして貰いなさいって」

 言って小夏がドライヤーを差し出した。マイナスイオン発生および電磁波軽減装置がついたドライヤーである。ここまで徹底しないと、弱いコラーゲンを守ることが出来ないのだ。柔らかく細い髪の毛は、二人とも肩に少し届くくらいまで伸びて、蘭姉や由美たちにすっかり遊ばれていた。サロニカ製の椿油入りシャンプーとリンスで洗われた髪から、ローズマリーの香りがする。山崎が気に入っている、サロニカのローズマリー・バスミルクを使ったのだろう。

 土方が左右両方に片手ずつ手を伸ばすと、小春が「ちゃんと百まで数えたよ」と言ってきた。

「アン、ドゥー、トロワ♪」

「キャトル、サーンク、シス♪」

「………」

 百まで数えたのは、日本語ではなくフランス語だったらしい。

 子供の頃「バラガキ」で有名だった自分とは掛け離れた幼少期を送っている双子に、ぶんぶん両手を掴まれながら、土方はリビングへ向かった。リビングは30畳以上であり、掃除に一苦労するが、山崎と要、だけでなく、何だかんだ言って押しかける蘭姉やその娘たちがやってくれている。男三名、女二名の山崎家に、蘭姉や娘たちが来ることで女が多くなると、小春と小夏はキッチンに駆り出され、そば粉クッキーや饅頭を作らされて喜んでいた。

 最近蘭姉は、山崎ほどではないがフランス語が出来る要に、フランス語のレシピを翻訳させて、ケーク・サレと言う、野菜や魚介類が入った甘くないケーキを作るのが趣味になっており、たまたま昼食用に弁当にして職場に持って行ったところ、おなかを空かせた竜馬が捜査本部に突然やって来て、勝手に半分以上を平らげ、土方に激怒されたことがある。蘭姉の娘の一人は、調理師の資格を持っていて、友人が経営するオーベルジュで腕を振るっているのだが、ケーク・サレはもとは彼女の得意なのである。

 そんな環境で育った要は、空手の他には語学とギター演奏が得意で、双子が由美の作ったエプロンを身に着けて料理にいそしむ間、リビングの壁際に寄せられたソファに座って、じゃかじゃかとギターを弾くか、フランス語の書籍を読むことが多い。リビングのドアを開けると、松岡良治のクラシックギターを膝に抱えて、BON JOVIの「Always」を掻き鳴らす要の姿があった。見たことの無い黒地の浴衣を着ている。ガバッと開いた漆黒の衿から真っ白い肌が溢れるように見える所為で、十三歳とは思えぬほどに艶めかしいのだが。

「あ、おかんや。お帰り」

「おぅ、遅くなった。…その浴衣、また由美が誂えたのか? 今年で何着目だよ」

「由美ちゃんちゃうねん。…あんなぁ、これなぁ、」

 要は、膝に乗せていたギターをソファに下ろし、組んだ膝を揃えて、立ち上がった。土方が十代だった頃と同じく、紛れようも無い黒髪の下で、濃い墨色の地に、裾から衿下いっぱいに、地面から立ちのぼるように、真っ赤な彼岸花が染められていた。どうみても、子供が身に着ける柄では無い。昔から帰宅後は浴衣を着る習慣のある要でも、流石に躊躇う柄のようで、柔らかい口調ながらも意思表示はする方の彼が、珍しくもごもごしている。

「これな……、きんの(昨日)、近藤のおっちゃんに、貰(もろ)てん」

「…ぶっ」

 漸く午後八時前に帰宅した「かーさま」の姿が嬉しくて、土方の周りをパタパタ走り始めた小春と小夏を何とか留めながら、土方は噴き出した。黒地に彼岸花の浴衣は、何を隠そう、土方が昔着ていたものである。ただし、日野署に勤務する前の刑事時代のことで、その際は二十三区内のマンションで一人暮らしをしていた為、この柄を知っているのは近藤を除いてはごく僅かな人間しかいないのだ。つまり近藤は未だにその浴衣を着ていた土方を覚えていて、かつ、土方と要を同一視していると言うことで、

 あンの野郎〜

 美貌を思い切り顰めて、土方は、要にドライヤーを渡しながら顎をしゃくって、小春と小夏の髪を乾かすように促した。怒りに任せて、リビングをどかどか鳴らして歩き、キッチンに行って冷蔵庫を開け、要が作ってあるであろうサラダを取り出そうとして、空の食器洗い機を見た。ここが空だと言うことは、こいつらはまだ夕飯を摂っていない。

 おい、と声を掛けようとして、振り返りざま、視線をずらすと、ダイニングテーブルの上に、ケーク・サレや白身魚のポワレらしきものが、五人分きちんと並べられてあった。テーブルの中央には、シルバーパニエ(ワインバスケット)に入ったワインボトルと、保温調理が出来る鍋が見える。

 ……こいつら、俺が帰って来るのを、わざわざ待っていたのか?

「…………」

 両親のいない家庭で育った自分には、たとえ大家族だったとしても、親がいる家庭がどんなものか、想像しかつかないのだ。仙人のような為兄は兎も角、いつも口うるさい蘭姉(「何ですって!?」)や、似たり寄ったりの叔母たちに囲まれた大家族だった都合で、家族全員が揃った夕飯への絶対的な拘りは無かった。まして刑事になってからは、食べるよりは現場周辺を駆け回るか署でパソコンに向かうかを選んだ為に、時間を見つけて各自食べることが当たり前になっており、既に子持ちの身とは言え、一家団欒の食卓には、どこかで未だに慣れていないところがある。

 しかしそれは飽くまで土方の感覚であり、要や双子たちは違うのだ。物心つくころから、あちこちに預けられ、そこで彼らが目にした「両親が揃った食卓」や「普通の家庭」が、やはり羨ましいのだろう。多忙の土方を常に思いやる山崎の教育の影響で、子供たちが表だって土方に「いつも一緒にいて欲しい」と言うことは無いが、やはりどうしても、彼らの望みはそこに集結しているようだった。

 クォーン、とドライヤーの音を鳴らして、両膝に双子を乗せた要の指は、ふわふわの焦げ茶の髪を撫でているが、小学校低学年の頃は、連日連夜帰りの遅い土方の服を手にして、離そうとしなかった。自分の帰宅が夜の十時を過ぎても、リビングのソファで、膝を抱えてうつらうつらしながら待っていた要を、いったい何度、抱きしめただろう。いったい何度、この胸にあいつの頭を抱え込んで、あいつを寝かせただろう。

 もういい加減、こんな生活はやめなければならない。これでもかというぐらいに、働いて来た。警察官としても公務員としても、出来ることはやってきたと思う。若い頃から、金は有り余るほどにあったし、これ以上作る必要は無い。むしろ、これからは自分が常に家に居て、要や双子たちが望むとおりの、「普通の家庭」なるものを、時間はかかるかもしれないが何としても作りたいと、心の底から願い始めていた。

 そんな土方が、仕事で官邸に詰めていたところへ、唐突に木戸孝允が言って来たのは、先週のことだった。どうやら、要が警察庁長官賞を取った作文を読んだらしい。全国中学生作文コンクールの主催は文部省で、コンクールを統括していたのは木戸だったから。

 今以上に強権力のある警察組織を作って、犯罪を思いきり減らしたいだなんて、要くんは立派だよ。君の教育は正しかったじゃない。私も、そんな息子なら欲しかったな。養子で良いから。

 てめーにゃ、絶対やらねぇよ、なに吹き込まれるか分かったモンじゃねぇ。てめぇがあいつを木戸家に入り浸らせた所為で、あいつのシーズナル・グリーティング(カード)が、毎年何百枚送られてくると思ってンだ。

 酷いなぁ、単に私は、要くんを人気者にしようとしただけで…………ところで土方くん、きみ、国家間上位警察委員会って興味ない?

 ―――――ンだ、そりゃ?

 来年の春に内閣府が新たに設立する組織だよ。内閣総理大臣の直下だから、シークレットサービスと同じで、各自が自由に動けるし、実はインターポールよりも強権力のある組織として、世界五十か国と連携を取ることに既に決まっているんだ。インターポールがあっても、国内の警察活動そのものは、各国警察に依るからね、竜馬は、インターポール以上に各国の内部に入り込まないと、国際犯罪の芽が消えることは無いと言い張って、一昨年の夏に、国連で秘密裡に合意させてきたんだ。と言っても、一部の国だけだったけれど、捜査に非協力的な国の名前を、国際会議で露呈しまくることで、法を潜り抜けまくっている国に、世界的な恥をかかせるわけ。で、そんな国に日本国政府は技術支援も資金援助もしないし、貿易商や留学生なんかの受け入れもしない、とアピールしてきた。

 相変わらず、性格悪(わり)ぃな、てめぇら………日本の宝が泣くぜ……

 上位警察委員会の設立が決まったことを、(斎藤)弥九郎師範に報告したら、私に居合の稽古をつけて下さったよ。

(…勝手にしろ)……で? その、なんたら委員会と俺と、どういう関係があるってんだ?

 勿論、委員の一人になって欲しい。君ほど、あちこちに顔のきく警察官はいないし、きみは団体のなかで埋もれるよりも、一人で決めて一人で行動して結果を出すのに向いているでしょう? 委員会が求める人材はそこだよ。団体からはみ出て、単独で捜査に当たり、インターポールが抱える壁を突き破って欲しいんだ。

 面倒くせぇ。それに、俺はもう年、

 要くんの作文、とても良かったよ。この前要くんに電話した時に聞いたんだけどさ、彼、インターポールになりたくて、フランス語検定で、もう三級を取ったんだってね。でもお母さんのきみが、この委員会で勤めていたら、どうだろう。インターポールへの推薦も、簡単に取れるんじゃないかなぁ? シークレットサービスOBおよび国家間上位警察委員のOBは、警察組織内では最強だし、君の出張にかこつけて、要くんと双子ちゃんを連れて、海外旅行にだって行けるよ、委員会の支部を、取り敢えずグアムとNY、ロンドンとパリと、タヒチに作っておいたから。これからもっと増えるし(にこにこ)。

 …………

 それでつい、土方は木戸に、「分かった」と言ってしまったのだ。最後の、家族で海外旅行、が効いた。刑事課長の山崎は留守番になるだろうが、語学が得意な要にとっては現地で実践させるのが最も良いし、来年に高校受験を控える要が行けないとなっても、土方と国内旅行にすら行ったことの無い双子たちは大喜びだろう。木戸の話では、委員を早くに退職したとしても、委員のOBと言う立場がついてまわるため、講演会や執筆活動に入ることも簡単、とのことだった。講演をするのは御免だが、執筆ぐらいは出来るかも知れないし、それなら自宅で原稿を打ち込むことになるから、家庭生活をちゃんと営める未来が待っていることになるのだ。

 それに、上手く行けば要も警察官として、順調に出世出来るかも知れない。それは、家庭生活にかなり自信が無い土方が、金を除いては唯一、要に残せる財産なのだ。

 そう思って、安請け合いをして来た矢先に、要が求めているものが普通の家庭であることを再確認して、警視庁一と謳われる筈の自らの判断に呆れ果て、つい先ほど、地下駐車場で愛車のステアに寄り掛かり、がっくりと項垂れて来たのであるが…

「なぁ、おかん」

 双子の髪の毛を乾かし終えた要が、双子をテーブルに着かせ、土方が準備しようとしていたミキサーを代わりに取り出して、カウンターの上にある籠から取った林檎を手早く刻み、皮を剥いたオレンジ、レモン、千切ったレタス(土方家の無農薬)と一緒に、ミキサーにかけた。毎晩こうやってフルーツジュースを作るのが、夕飯の合図なのである。この仕事は、平日は要か山崎が、土日は土方がやるようにしていた。要の慣れた手つきを見て、自分は実に久しぶりに、要のこんな姿を見たことに気が付いた。それはそれだけ自分が、平日の夕方にここにいなかった証拠なのだ。

 軽く溜息をついた土方に、「これ、おかんの」と言って要が出来上がったジュースを、透明のグラスに入れて差し出した。全員が食卓に揃う際には、土方が飲んだ一杯の残りを、子供たち三人が夕食中に飲むのである。このルールは要が幼稚園の頃に山崎が言い出したもので、要は未だにいちいち守っている。

 白い手で差し出された新鮮すぎるジュースを飲みながら、土方はこちらに静かに体を寄せて来た要を見た。自分と同じ姿かたちをした少年が、漆黒の瞳を上目遣いにして見つめ返している。

「ん?」

 そして要が耳元で囁いた言葉。

「(おかんは昔、(近藤の)おっちゃんと、デキてたんやろ?)」

「……っ」

 グラスを握る手が、一瞬だが震えてしまった。水面が揺れて、作り立てのフルーツジュースの滴が僅かに零れ、透明なグラスに一つの弧を描きながらフローリングの床に向かって流れて落ち、土方の動揺が要に伝わってしまう。ちらりと要を見ると、普段は優しい瞳をしている彼の眼が、「鬼の土方」そのものになっていた。

(妙なとこ、遺伝すんじゃねーよ!)

「俺、だいぶん前に分かっとったで」

 慌てる土方と裏腹に、要は冷徹に言い放ちつつ土方から体を離し、ワインハンガーに掛けてある子供用のグラスを三つ取って、ジュースがたっぷり入ったピッチャーを、震えながらも持とうとしていた土方の手から奪い、グラスとともにカウンターに置いた。

「親父は優しいひとやさかい、昔の話は気にせぇへんのやろけど、俺はめっちゃ気にするんや。俺、まだ十三(歳)やで。十三で童貞と、二十八で貞操失ったおかんと、一緒にされとうないねん」

「(どうして知ってるんだ、こいつわ〜〜〜〜〜)」

「異性間不純交際なら分かるねんけど、同性間不純交際は、あんまりや。しかも、警察官同士の不倫やし」

「〜〜〜っ」

 一挙に真っ青になった土方をちらりと眺めつつ、「にーさま、どーていって、なあに〜?」「ていそーって、なあに〜?」と、カウンター越しに尋ねてくる双子に、要はニッコリ微笑みながら、「大人になることや。(小)春と(小)夏の貞操は、俺が大事に守ったるさかい、安心してええで」と言って、すたすた歩いてキッチンを出た。我慢できずに木製のダイニングチェアから降りていた双子を、もう一度ダイニングテーブルに着かせると、先程カウンターに置いたピッチャーとグラスを、テーブルに並べ始める。

「まぁ、昔のことは、もぅええわ。俺が気にしてるンは、そないおかんが、親父ほっぽり出して仕事ばかりしはって、最近また、帰りが遅いことや。警察の仕事は、面倒がぎょーさんあるて、俺もよぅ分かっとる。けど、折角親父が早く帰って来ても、おかんがおらなんだら、親父が可哀想やん」

「―――――それは、悪かったと思ってる」

「せやさかい、俺にも、考えっちゅーモンが、あんねん」

「?」

 要の瞳が、視界の向こうでぎらりと光った気がして、キッチンを出てダイニングテーブルへ移動しながら、こっそり怯えた土方だった。そんな母親の心情を知ってか知らずか、振り返った要の視線が妖しく煌めく。

「このまま、おかんが親父の面倒みなんだら、」

「………なんだよ」






「俺が親父を、全身使(つこ)て、一晩中、慰めたるわ」






    (☄ฺ◣д◢)☄ฺキシャー






「ええやん。おかんと同じ顔やし、おかんが童貞失ったの十三やろ。俺は十三で、親父に貞操捧げるねん。おかんと違(ちご)て、使用済みやないで。俺は、初恋のひとに体捧げる純朴な少年なん(うっとり…)」

「(キシャー)」

 土方が鬼への変化(へんげ)を完了したちょうどその時、リビングのドアを開けて、山崎が入って来た。風呂上がりの彼は、土方さんお帰りなさい、と言って、ダイニングテーブルの前で立ったままの土方に近づいて来ようとしたが、直前で、両腕を広げた要にブロックされる。

「親父ぃ〜」

「要、待たせてすまんな、お腹空いたやろ。今日はたんと食べなあかんねんで。成長期やさかいにな」

「うん、たんと食べる」

「……それにしても、ごっつい柄やなぁ。中学生には、早いんやないやろか。土方さんは、この浴衣、どう思います?」

「――――良ンじゃね? …家で着る分には、割と、結構、似合ってると思うぜ」

 土方の答えに、山崎は、「俺はええんやけど」と苦笑する。

「要、ちょぅ吃驚しとったやろ。今まで由美さんが贈ってくれはった浴衣は灰色や紺で、柄は、縞とか蛍とかやったしなぁ」

「…せやねんけど、俺が着ぃへんかったら、近藤のおっちゃん、泣いてまうやろ…(ノAヽ)」

「要は優しい子やなぁ」

 いいや山崎、そこ、違うから、絶対に違うから、と土方が心のなかで呟くのを尻目に、山崎と要の二人は、見つめ合ったままソファに移動して、会話をし始めた。今日は中学校で何があっただの、通学路の途中で花が咲いただの、ソファの上に散らばった書籍を広げて、フランス語のここが分からない、だの。

 要の体から、薔薇色のハートマークが飛び交っているのは、土方の気のせいでは無いだろう。

 奥歯をギリギリと噛みしめた土方だったが、流石に空腹が我慢できなくなった小春と小夏に、取り敢えず食べさせるために、六人掛けダイニングテーブルの、カウンター側の方の、双子に挟まれる位置にある真ん中のチェアに、腰を下ろした。まだ会話を続けたいらしい山崎と要に、先食べてるぞ、と言った土方は、ジュースを飲みたくてたまらなかった双子のグラスに、鮮やかな色の果汁を注ぐ。双子は、いただきまーす、と言って、蘭姉に教わったレシピで要が作ったのであろう、ケーク・サレにフォークをつけた。

 美味しい♪、との声が笑顔とともに聞けて、怒りに震えた土方の心が、少しは穏やかになったのだが、ソファの上で、昔、自分が着ていたのと良く似た柄の浴衣を着た要が、風呂上がりの山崎の体に、白い腕を絡ませる様子が、唯でさえ痩せている土方の胃を傷つけていく。ましてその要は、大阪弁と空手をする以外は、自分にそっくりなのだ。白い肌も、男にしては柔らかめの体も、思い詰めやすい性格も、何もかも。

(こいつが本気を出したら、マジで十三で、貞操捧げるンじゃね…?)

 すべては自分が撒いた種とは言え、燦然と輝く「オール五」の成績表の直後に待ち受けていた現実に、土方は怒れば良いのか泣けば良いのか、分からなくなった。目の前にあるケーク・サレとカラフルな野菜のマリネの乗っかった白い皿に、ちっともフォークをつけようとしない土方を、小春と小夏が心配そうに見上げてくる。

「かーさま、おなか痛いの?」

「痛いの痛いの、飛んでいけー」

「……ありがとよ、痛いの、飛んでいったぜ。じゃぁ食おうな(今夜は多分、ベッドで俺が殺されるだろうからよ)」

 そう思って、はっとした。

 そうだ、例え要が山崎を想っていようと、山崎が好きなのは俺なのだ。警察学校を主席で卒業し、若くしてインターポールや公安警察にもなれたであろう経歴を自ら捨て去って、山崎丞と言う男が日野署まで来たのは、他の誰でも無く、自分がいたからだ。女と別れてまでも自分を選び、ワーカホリックな自分をどんな時でも支えてくれる。このマンションだって、虚弱体質の自分の為に、蒸散効果のある観葉植物をいっぱいにして空間を埋めたいから、と言う理由で販売と同時に購入したのだ。

 あれから自分は、どれだけ深く愛されてきたことだろう。要が生まれて、警察を辞めようと思った土方を引き留めたのは、山崎だった。両親が居ない自分の代わりに、大阪から呼び寄せた母親と交替で、仕事から帰って疲れていただろう日にも、夜泣きの酷かった要を、マンションの広いテラスで、冬の星空を見上げながら一晩中あやして歩いていた。捜査本部での仕事が立て込んだ所為で、首相官邸に預けていた要を迎えに行けずにいた自分の代わりに、深夜に高速道路を飛ばして要を引き取りに行ったのも、山崎だった。

 仕事以外は欠点だらけの自分を、山崎は、いつでもどこでも受け止めて、包み込んでくれた。あの日々があったから、母親を知らない自分が、母親として立てたのだ。

 何もかも、山崎の、自分に対する愛情から始まった。あの濃厚な時間を、俺たちだけが知る空間を、このガキどもは知らない。知らせる必要も、無い。時間は常に進むだけで、元に戻せないのだから。

 クックックックック………

 先程まで、紫色に震えていた土方の唇が、にやりと笑い出すのを確認すると、要の両目が大きく見開かれ、長い睫毛が、ぴん、と跳ね上がった。それから要は、いったん山崎から腕を離しソファから立ち上がって、こちらに近づいて来た。心と食欲の回復した土方が、保温調理器からスープのお代りをしようとテーブルの中央に腕を伸ばしながら、何だか妖しく蠢く要の細い手を、横目で見ると、

「親父、これ、今夜貸してぇな」

 ちょうど変声期に入ったばかりの掠れた声を穏やかに聞く山崎を、うっとり見つめて振り返りながら、要は、ちょうど土方の座っている向かいのダイニングチェアに掛けてあった山崎のガウンを手に取り、腕を通した。平均よりも少し成長が遅い要は身長が漸く145センチになった程度であり、176センチある山崎のガウンは、ぶかぶかである。

 白くて細い体が、焦げ茶のガウンに埋もれるの図は大変可愛らしいのであるが、

「一昨日も着たやんか。欲しいなら、要のもちゃんと買(こ)うたるで」

「そんなん要らん。親父の匂いすんのがええの」

「はは、要は甘えたさんやなぁ」

 最愛の妻と同じ顔と姿かたちなのに、幼い頃からおねだり上手な要に心の底からヤラレタ山崎は、すっかり鼻の下を伸ばして、デレデレしながらソファから立ち上がる。デレデレした所為で、やや、膝ががっくん言っているのは、土方的にはいただけなかったが、要にとっては幸いで、そのまま要は、わざと土方に見せるようにして、腰砕け状態でこちらにやってきた山崎の体に抱き付いた。

「要、そろそろ夕飯食べな、冷めてしまうで」

「親父と居るだけで、幸せで、お腹いっぱいや」

「…細いねんなぁ。もうちょぃ肉つけな、空手の昇段試験まで間に合わへんよ」

「ほな、親父、今度の日曜に、ぶり大根と大阪のおでん作ってぇな。俺も手伝うさかい、味付け教えて欲しいねん」

「ええよ。お好み焼きも作ろか?」

「今度は、たこ焼きがええなぁ♪」

 ……何だか、妙に盛り上がっている。大阪弁の出来ない土方には入り込めない雰囲気に、眉をヒクつかせながら、土方は心の中で、今夜だ今夜……と念仏のように唱えることにした。見た目が自分と同じとは言え、土方には、要のようにはっきりと、愛情を表現することが出来ない。山崎はそれを理解していて、だから抱き合える夜は、ただひたすらに愛なのだ。

 俺と山崎の間には、誰にも入れやしねぇ、絶対無理。何せ、俺が二十八で貞操を捧げた初恋の勝っちゃんまでもを追い越して、俺が山崎を選んだのだ。そんじょそこらの覚悟じゃねぇよ、童貞の中学生にゃ、負けはしねーよ、へっ。

 土方が一人の世界に入っている間に、土方の両隣で、時々零しながらではあるが、毎回しっかり料理を平らげる双子は、それぞれ二枚目のケーク・サレもぺろりと食べてしまった。それでもテーブルから離れようとしない二人に、土方が、「甘いケーキも食べるか?」と尋ねると、目を輝かせて喜んだので、大阪弁で盛り上がる二人をよそに、土方はチェアから立ち上がって、いつも手作りのケーキかゼリーが入っている冷蔵庫まで行こうとした。

 その瞬間、要が細い両腕を山崎のパジャマを着た首筋に絡ませ、爪先立ちをして伸びあがり、母親とまるで同じ香りを山崎に嗅がせると、山崎の膝ががくがく言い始めるのが分かった。それを体の振動で確認した要が、こちらを見ながら笑うのだ。その余裕の表情を見て、土方の胸に一つの疑問、いや、確信が湧いて来た。

(まさかこいつ、イランイランの香油でも使ってんじゃねーだろうな?! あれは俺の、秘密兵器だっつーの!)

 ニタリ

「…………」

 自分と同じかお体が、山崎にゴロゴロ猫のように懐いて、クラス担任も校長も、教頭も保健室の先生も、土方家も近藤も、近藤の娘も息子も誑かし、日野市民までも、いや、警察庁長官までもを誑かしている。

 (☄ฺ◣д◢)☄ฺキシャー 

 てめぇら、俺の息子に誑かされてンじゃねーよっ!!! こらそこっ! 俺の若い頃にそっくりだとか言うな! 断じて俺は、こんなタラシじゃねーぞ! つーか、要っ! 山崎からさっさと離れろっ、俺と同じ顔で抱き付くンじゃねーっ!!! このガキャー、どこが「我慢すればするほど、素直になれなくなる」だ! 毎日毎日朝っぱらから、べったべったと山崎にしがみついてやがるじゃねーか!!(ガキが出来てから俺だって深夜以外したことねーのに!!!) 素直すぎるンだよ、ちっくしょぉ〜!!!!!

 怒り心頭で蒼褪め、美貌が更に美しくなった「おかん」の顔を、だぶだぶのガウンを着たまま抱き付いた「親父」の肩口からちらりと出した眼で見つめ、漆黒の瞳の奥で、要はニタニタ笑った。同時に、「あかん〜、土方さんと同じ匂いや〜」と、山崎が要を抱きしめる腕に力が入るのが、ダイニングテーブルからも見て取れる。

「…親父ぃ、俺、もぉ眠い…夕飯食べたら、一緒に寝よ」

「ほんまに甘えたやなぁ要は……。ええよ、ちょっとだけやで」

「俺…親父が、めっちゃ好きやねん❤(いつか絶対、俺のモンにしたるわ)」

「…………… (☄ฺ◣д◢)☄ฺ」←地獄耳

 要が、最愛の山崎と二人の時間を過ごしたいが故に、長年かけて坂本龍馬と木戸孝允の二人をも誑かし、国家間上位警察委員会を設立させたことも、ここだけの秘密にしておこう。








≪あとがき≫

 最強にして最恐の要くんのお話でした。将来きっと、世界を誑かす。

 山崎家のモデルルームは、レーベン横浜汐見台ソラノテです。
autor 覆霞レイカ2014.06.01 Sunday[22:40]
覆霞レイカ様  今日は 昨夜 「続きです 読んでみて下さい」の コメントを 2通 送らさせていただきましたが 先に送ったコメントに 誤字の部分有りましたので 書き直して 後からもう一通送りました   ですから   もし コメントに 載せて くださるの でしたら  後 から 送った 方を 載せて頂けないでしょうか? たびたび 失敗ばかり して  すみません  では  失礼します
 桂 恵2014/06/16 06:36 PM
 覆霞レイカ 様 続きです 読んでみて下さい  普通に働いているお母さんなら 朝8時〜夕5時で 家に帰ることが出来ます しかし 警官
の仕事」は24時間体を拘束され、坂本総理の信任も厚くしかも仕事のできる土方さんがそんな真似が出来る筈も無く 夜遅く帰り幼い要君が自分の服を抱えて泣いて眠っていたそんなことも有りました。 一週間家に帰れない時も有り。 もうこんな生活は 止めよう と思っていたのに 坂本総理から国家間上位警察委員に乞われ双子を連れて旅行に行けるだろう警察官になりたがっている要君の将来の為にもなるだろうと言われ、安請け合いをしてしまい 担任から「ずっとお母様と居たがっている」と言われ・・・要が望んでいるのは普通の家庭であると確認して土方さんは打ちひしがれます…。夕食の支度は要君がしててくれて久しぶりに早く帰った土方さんが居るので双子ちゃんも嬉しがっているのですが・・・そこから要君が爆弾発言を始めるのです!! 「おかんは昔(近藤)のおいちゃんとデキてたんやろう?俺だいぶ前に分かっとたで」 近所の小料理屋の座敷で成長する度に自分に似てくる要を抱きしめて「としィもう一度俺とやり直さないか?」とか「なんで俺たちの間には(ガキ)ができなかったんだ・・・あんなにやりまくったのに」  「てめえの種つけが下手くそだったんじゃねーの」  ああ!あなた達はガードが甘すぎます!なあに子供さ解かりゃしないさなんて甘く思っているからこうなるのです。ちゃんと解かっているのですそれに誰が聞いているのか判りませんよ。「ラ・フロレゾン」のとき あかべこで突然現れた比古師匠に以前関係が有った事を暴露され土方さんは青ざめ 次いで山崎君は落ち込みます その時 更に近藤と関係が有ったことを山崎君が知ったら何と思うでしょうか?「土方さんは美人やし新津先生の一人や二人」と言っていましたが もし知ったならいくら同棲する前に別れたと言っても山崎君は半狂乱になったかも知れません。もし他人に言われたなら「なんだてめえは!てめえと何の関係がある?!」と言って無視すればいいんですけど相手は自分の息子でいきなりそんな事を言われれば狼狽して反論など出来ませんましてや傍で小さな双子が居て二人の話を聞いているのです。「親父は優しい人やさかい昔の話は気にせえへんのやろけんど俺はめちゃ気にするねん。俺まだ13(歳)やで13歳で童貞28歳で貞操失ったおかんと一緒にされとうないやねん (何で13歳で童貞とか貞操なんて言葉を知っているのでか?!それに一緒にされとうないだなんて ぐさあっと来ました!!) 「まあ昔のことはもうええわ  ・・・折角親父が早く帰って来てもおかんがおらなんだら親父が可哀想やろ。 せやさかい俺にも考えちゅうもんがある。このまま、おかんが親父の面倒みになんだら 俺が親父を全身使(って)一晩中慰めたるわ。凄い!!負けそ〜!!  要君本領発揮!! だからこれは妄想なんです!!  と思うのですが読んでいて要君のあまりにも凄い言い様に唖然、茫然となりました。「ええやん。おかんと同じ顔やしおかんが童貞失ったわ13やろ俺は十三で親父に貞操捧げるねん おかんと違て使用済みやないで俺は初恋の人に体捧げる純朴な少年なんや。(うっとり)(何で土方さんが十三で童貞を失ったなんて知っているのですか?私は今知りました)。おかんと違て使用すみやないで この言葉にも グサーときますね!で 要君の初恋の人は親父と言うことなんですね!? その後風呂から上がった山崎と土方さんは話をしたいのに要君にブロックされて出来ません…気が滅入って夕飯も咽を通らない。要君は山崎君と 話が盛り上がり ゴロナ〜ゴと 傍得ているのです 「親父ぃ俺もぉ眠い 夕飯食べたら一緒に寝よ」「ほんまに甘えたやなあ要は・・・ええよちょとだけやで(山崎としては土方さんが久しぶりに早く帰ったので夫婦の語らいをしたいのでは?)  
「俺 親父がめっつちゃ好きやねん いつか絶対俺のもんにしたるわ」    キャシー!!    最後に 要が最愛の山崎と二人の時間を過ごしたい故に長年かけて坂本竜馬と木戸孝充の二人を誑かし国家間上位警察委員会を設立させたこともここだけの秘密にしておこう。 と在りました  恐るべき 要君 ! しかし 山崎と二人きりになりたいのなら 土方さんを忙しくさせるにしても 「俺 妹達の世話も家の事も沢山するからおかんは気にせんと 仕事に励んでくれ」 と 言えば 土方さんは 安心して家を空けられると思うのですが・・・   ** 閲覧中後にどうなっても責任負えません** と  在りました。 本当にショックでした要君にやられたーと言う 気がしました。では失礼します     ここまで 読んで下さって ありがとう 御座いました                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    
 桂 恵2014/06/15 11:44 PM
  覆霞 レイカ 様  今日は     「うちのおかんは苦労性」 を拝読させて頂きました コメントの様な読書感想文を書いてみました  読んで見て下さい。  もう 要君の 最恐ぶりには驚かされました!!題が「うちのおかんは苦労性」なのでこれは 大阪に居る山崎君の お母さんが末っ子の丞君が30歳を越してもちっとも結婚する気配が無いので病気を押してお見合いを 計画する…内容かな?と、お目出度い想像をしていたら・・・。まず女の双子ちゃんが登場したので ああ土方さんと山崎君に子が出来たのだと知りました。冒頭のただし書きに**どこからどうみても妄想だけの文章です** と在ったので成程 男の土方さんが妊娠出産をするんだから妄想だと納得しました。それで次の次の**閲覧中後のにどうなっても責任負えません** と在り これはどういう事なのかしら?と 読み進むうちに アレ〜!!(驚きの叫び)です。要君がデキたとき土方さんは仕事を辞めようとしましたが 山崎君が「子供の面倒は自分がみるさかい土方さんは警察続けて下さい」と言ってくれたのでそれからは大阪から両親を呼んで要君のおしめ洗いに買い出し、安全面を考えて首相官邸に預け 双子が産まれからは土方さんの実家や近藤さんちで面倒を見てもらうという生活で子供達は周りの空気を読むことが上手いのですが子供なりに他所の家に行けば其れなりに気を使ってストレスが有ったと思います。土方さんは要君の二者懇談に行って担任の先生から要君が養護の先生に「妹達は絶対に寂しいとは言わないけれど俺も同じだったからわかる我慢すればするほど素直になれなくなる」 そう言ったと聞かされて心臓にきます。土方さんは坂本総理から国家間上位警察委員に成るように勧められ そうすれば警察官になりたがっている要君が将来インターポールに成るとき母親がOBならば推薦し易いと言われ承諾していたのです 今より忙しく成る事は解っているのに・・・・。要君の求めているのが普通の家庭であると確認して土方さんはガッツクリ項垂れます。ここの場面では土方さんが可哀想でした土方さんに限らず仕事を持っているお母さんなら誰でも抱えるジレンマです。充分世話が出来ているだろうか?家に帰っても誰もいなかったら寂しくないだろうか? 子供が風邪をひいたから早退をさせて下さい 休ませて下さい 職場に迷惑が 掛かることが解っていても自分の子供の方が大切ですから かと 言っても生活が係っているのでそう簡単には辞められません。  続きます                                                                                                                                                           
 桂 恵2014/06/15 03:28 AM
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