Diary & Novels for over 18 y.o. presented by Reica OOGASUMI.
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晋作から電話があり、私は週末を下関で過ごすことになった。 「ごめん………」 私が下関に行くことに決まって、大久保の落ち込みは増す一方である。 「なるべく早く帰るから」 「………」 「お土産買ってくるから」 「……………」 「寝る前に電話するよ。おやすみって、ちゃんと言う」 「……絶対ですね?」 「うん、絶対」 「……」 それでも大久保の顔は冴えないままだ。大久保はいつも週末を楽しみにしているから、今日の私の突然の予定変更がよほどショックなのだろう。私はできるだけ明るい口調で言うことにした。 「明日の午後発って、東京には日曜の二時過ぎに戻るよ」 「………お迎えに上がります」 「…ありがとう。じゃぁ、そのままどこかに買い物とか行こうか」 「……お疲れが更に増すのじゃないですか?」 「それくらい平気だよ」 「じゃぁ……」 「うん…」 「…日曜の午後は、ずっと私といてください」 私は大久保に近づいて、つま先で立って背伸びして彼の唇にキスをして、日曜の約束をし、出発の許可を貰った。 だから私は早く帰って たとえ私がとても疲れていても 大久保に 元気な姿をみせなければ 朝から降り続いていた雨が止んで、窓の外には大きな虹が空いっぱいにかかっている。 木戸さんも眺めているのだろうか。 などと思いながら俺は会社を後にした。虹を追いかけるようにして木戸さん宅に帰る。いったん車から降りて軒下から垂れる雨水が西日を浴びてきらきら輝く道を、俺はのんびり歩き夕食の買出しに行った。 今夜は何がいいかな。肉かな、魚かな。木戸さんはあまり肉がお好きじゃないからなぁ。俺はなんでも食べるけど。 でも木戸さんは好き嫌いがある(野菜よりも果物が好きでトマトがお苦手)とは言え、食べてください、と言えば素直に食べてくれるから、作る俺のほうも嬉しいことこのうえない。 というわけで今夜は食べやすいハヤシライスにすることにした。 「ただいま…」 木戸さんは六時過ぎに帰ってきた。 「おかえりなさい」 エプロン姿で玄関に出ると、木戸さんがスーパーの袋を提げているのが見えた。 「お買い物ですか?」 「急にヨーグルトが食べたくなって…」 「じゃぁ、果物と合わせてフルーツヨーグルトにしましょうか」 名づけてレインボーヨーグルト。 俺の提案に木戸さんは笑って応えてくれた。 俺はキッチンに戻って木戸さんの買ってきたヨーグルトをボールに空け、果物を刻んで砂糖と混ぜた。 虹色の幸せを木戸さんとふたりで味わえるように。 夕方近くになると大久保を思い浮かべる。窓の外を眺め、ほぅと息をつけばガラスに写る自分の顔のとなりに大久保の姿がみえるような気がするのだ 。 「今夜の機嫌はどうかな…」 昨夜の大久保は、私が江藤と親しくしていたことが原因で一晩中落ち込んでいたのだ。大久保は江藤が心底嫌いらしい。私はただ、法律に異常というほど精通している江藤が近くにいれば有利に議事を進めていけると思っているだけなのだが。 お陰で昨夜は酷かったのだ。 「痛たた…」 思わず私は腰を押さえて、ぎゅっと音を鳴らしながらソファに座った。まったく大久保は、骸骨のような体をしている癖にそういう体力だけは豊富なのだから… 『木戸さん…』 『ん…?』 『私を捨てないでください』 『捨てるなんてそんな…お前は私をそんなふうに思っているのか?』 『…そういうわけでは…でも貴方が江藤と仲が良すぎるので、いつか私のもとを離れてしまうのではないかと不安で、』 『…私は彼の知識を借りているだけだよ。個人的な話題なんてしたこともないし…』 『……そうですか?』 『そうだよ。それに江藤君は結構な愛妻家でね、仕事が終わるとすぐ帰るらしい。子供も生まれたばかりだし、』 『…やっぱり良くご存知なんじゃないですか………』 大久保は、うう、と言って私の胸に顔を伏せた。大久保の様子に思わず私は笑ってしまった。 『困ったなぁ、私はどうすればいいんだ』 私が言うなり大久保はぱっと顔を上げて、きらりと灰色の瞳を輝かせて言ってくる。 『誰よりも私を愛していると言ってください!』 『……え、えー…』 『違うんですか??』 『ていうか、さっき言ったと思うのだけど』 『何度でも言ってください!』 『(こほん)…誰よりも、大久保を、愛しているよ』 『私もです、ということでもう一度!!』 そして私は押し倒された。 そんな途方も無い五時から男だけれど、 やっぱり今夜も、早く会いたい。 このところ毎日が眠い。 「ふぁぁ」 俺が欠伸をしていると、目をこすりながら木戸さんが降りてきた。 「おはよう」 「おはようございます……木戸さん」 抱きついた俺の背中を木戸さんは抱きとめる。 「どうしてこんなに眠いんでしょう?」 尋ねる俺と 「大久保は早起きだから、もっと眠っていていいという意味なのかな…」 返してくれる木戸さんは温かく… 「いつまでもこんな日が続けばいいのに…」 「…え?」 いつまでもこのひととともにいられる生活は現実になりそうで、或いは夢のままのようで、けれど夢であることを俺は認めたくなくて。 「私が眠いのは…」 木戸さんの白いシャツに頬を寄せれば柔らかい香りがする。 「ん…?」 「こうして…夢のような幸せをいつまでもみていたいからです」 「ばか………」 ああ、またそんな顔で笑って。 俺は本気なんですよ。 本気なのに… こんなに眠いのは… この毎日が夢だからなのだろうか。 いや、それは違うだろう。 毎日があまりに幸せで、それが夢のようで、いつまでもここにいたいから、つい木戸さんに我侭を言ってみたかったのだ… 「自分でも分かっているんです。甘えてるなぁと…」 「甘えていいよ…」 「…いいんですか?そんなに私を甘やかして…図に乗りますよきっと」 「嫌ならいいけど」 「……じゃ、お言葉に甘えて」 俺がそう言うと木戸さんは「ふふ…」と夢のように笑った。
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